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伊藤詩織さん勝訴と#MeToo

カテゴリー:内閣法務 投稿日:2020-01-29

性暴力の根絶を求める運動の前進

伊藤詩織さん勝訴と#MeToo 「性暴力被害者は孤立しやすく、回復が難しい」。ジャーナリストの伊藤詩織さんは勝訴判決後の集会で被害者の苦しい心情を語った。山口敬之・元TBSワシントン支局長から性暴力被害を受けたとして損害賠償を求めた訴訟で東京地裁は昨年12月18日、「合意のないまま行為に及んだ」と認定し、山口被告に対して慰謝料など330万円の支払いを命じた(山口被告は控訴)。また山口氏は伊藤さんに名誉毀損等の損害賠償1億3000万円を求めて反訴したが棄却された。

合意なかったと認定

東京地裁(鈴木昭洋裁判長)の判決は「酩酊(めいてい)状態にあって意識のない原告(伊藤さん)に対し、被告(山口氏)が、同意のないまま行為に及んだ」「原告が意識を回復して性行為を拒絶した後も、原告の体を押さえつけて性行為を継続しようとした」と認定し、性行為に合意がなかったと判断した。

「合意があった」と主張する山口被告の供述については、不合理な変遷があることから、「信用性に重大な疑念が残る」とした。

この勝訴は、日本における#MeToo(メモ参照)と性暴力を告発する運動の前進を象徴するものとなった。

事件をふり返ってみる。

伊藤詩織さんは10代半ばに渡米し、その後、ニューヨークの大学に留学してジャーナリズムや映像の勉強をしていた。在米中の2013年秋に、当時、TBSワシントン支局長を務めていた山口氏と知り合った。

伊藤さんは15年に東京に戻り、同年2月からロイター通信でインターンとして働き始めた。同年3月25日、伊藤さんは山口氏にメールを送り、就職の相談をした。相談のため、山口氏が一時帰国する際に会う約束をし、15年4月3日夜、東京・恵比寿の串焼き屋で2人は飲食。その後、寿司店に移動した。伊藤さんは日本酒を2合飲んだ後、トイレに行き、トイレから戻って日本酒を飲むと体調が急変し、再びトイレに入った(山口被告は、トイレに行ったのは1回だけであると主張)。便器に腰かけた後の記憶がなくなった。

翌4日の朝5時ごろ、伊藤さんが下腹部に裂けるような痛みを感じて目を覚ますと、山口氏が伊藤さんの上に乗っていた。伊藤さんが意識を取り戻して拒絶した後も体を押さえつけて性行為を続けようとした。伊藤さんは必死に抵抗。性行為はやまず、伊藤さんは必死で部屋を脱出した。数時間後に産婦人科に行き妊娠を防ぐ薬を処方してもらった。

伊藤さんは15年4月9日、原宿警察署に相談に行き、同月30日、高輪署に被害届と告訴状を提出し、受理された。6月初旬、高輪署は準強姦容疑で山口氏の逮捕状を取り、同月4日、捜査員から「山口氏が成田に帰国するタイミングで逮捕する」と伊藤さんに連絡が入った。

準強姦逮捕握り潰す

ところが、逮捕予定当日の6月8日、成田空港で捜査員が山口氏を待ち構えていると、逮捕直前に中村格(いたる)警視庁刑事部長(現・警察庁次長)の指示により逮捕は見送られてしまった。同日、捜査員から伊藤さんに「上からの指示で逮捕できなかった」とわびの連絡が入り、捜査員は担当から外されてしまう。

中村氏は、菅義偉官房長官秘書官を務めるなど安倍政権に奥深いパイプを持つ。

同氏は『週刊新潮』(17年5月18日号)の取材に「(逮捕は必要ないと)私が決裁した」と答えた。今年1月14日には、首相を忖度(そんたく)し準強姦の逮捕を握りつぶした同氏が警察庁長官官房長から同庁次長に栄転するという、信じがたい人事が行なわれた。

検察の不起訴に疑問

山口氏は安倍首相と近い関係にあり、16年6月に安倍礼賛本ともいえる『総理』(幻冬舎)を出版。

山口氏は15年8月26日に書類送検されたが、東京地検は16年7月22日、なぜか嫌疑不十分で不起訴処分とした。17年5月29日、伊藤さんはこれを不服として検察審査会に審査を申し立てたが、9月21日に東京第六検察審査会は「不起訴相当」の議決をした。

17年9月、伊藤さんは山口氏に対し1100万円の損害賠償などを求める民事訴訟を東京地裁に提訴した。伊藤さんは同年10月、著書『Black Box』を出版し、自らの性暴力被害について克明に記した。

伊藤さんは勝訴判決の当日、発布された逮捕状の執行見送りという異例の措置について「まだ明らかになっていないことがある」として、安倍首相の意向がどう関わったのか調査すべきだと強調した。また、「もし刑法に不同意性交罪が規定されていたら、私のケースも起訴のハードルが低くなったと思う」と述べ、刑法改正の必要性を訴えた。

 【#MeToo(ミートゥー)】セクシュアル・ハラスメントや性暴力被害を告発・共有する運動。2017年以降、インターネットなどを通じて世界的に広がった。被害を受けた女性が、同じ被害経験があるなら「私も(me too)」にハッシュタグ(#)を付して、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)で声を上げてほしいとネットで発信したことから急速に運動が拡大した。

(社会新報2020年1月29日号より)