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米軍の先制攻撃は国連憲章違反の蛮行

カテゴリー:外交安保 憲法 投稿日:2020-01-17

イラン司令官殺害を非難する

米軍は3日、トランプ大統領の指示でイラクの首都バグダッドへの空爆を行ない、イラン革命防衛隊の精鋭部隊「コッズ部隊」の司令官カセム・ソレイマニ氏を殺害した。イランは「開戦と同義」と強く反発。安倍政権が海上自衛隊を中東に派遣することを予定している中、情勢悪化が懸念される。

自衛隊派遣を撤回せよ

ソレイマニ司令官殺害を受けて、社民党の又市征治党首は5日付で次の通り声明を発表した。

「トランプ大統領は、『戦争を始めるためでなく、止めるため』のものであり、『海外に駐留する人員を保護するための防衛的措置』などと正当化していますが、予防的な自衛権の行使は違法です。イラクの主権を侵害するだけでなく、明らかに国連憲章2条および51条を違反する行為であり、米国の単独行動主義の蛮行によって、中東のみならず世界の平和を脅かすことは絶対に許されることではありません。社民党は、今回の米国によるイラクへの空爆とイランの司令官殺害を強く非難します。今後、イランによる報復が予想されますが、攻撃と反撃の連鎖から、本格的な軍事衝突に至る危険性を憂慮します。すべての当事者に対して、地域の不安定な状況を悪化させないよう、自制を強く求めます。そもそも米国とイランとの緊張状態が高まったのは、トランプ大統領がイラン核合意から一方的に離脱したことにあります。今回のイラク空爆と司令官殺害も、自らの弾劾裁判を控え、国民の関心をそらすために軍事手段に打って出たともいわれています。米国に対し、中東情勢をもてあそぶことなく、これ以上軍事的挑発をエスカレートさせないこと、そしてイラン核合意にただちに復帰するよう強く求めます。今回の米国のイラクへの空爆とイランの司令官殺害によって、中東情勢は一気に緊迫の度合いを高めています。今後、さらなる不安定化が避けられない中、周辺海域で武力衝突が発生し、自衛隊が巻き込まれる危険性が高まっており、先に閣議決定した自衛隊の中東派遣は直ちに取りやめ、厳に行なうべきではありません。米国とイランとの『橋渡し役』を強調してきた安倍首相は、米国の蛮行を支持するのではなく、今こそ米国とイランに対し自制を強く呼びかけるとともに、両国の対立解消を促すよう、トランプ大統領に姿勢の転換を迫るべきです」

米軍対PMFの様相も

今回の米国による暴挙の影響は、イランとの対立激化だけにとどまらない。ソレイマニ司令官と共に米軍に空爆され死亡したのが、「人民動員隊」(PMF)の副長官であるアブ・マフディ・ムハンディス氏。PMFは、イラクのイスラム教シーア派民兵組織を中心とする武装勢力の連合体で、IS(いわゆる「イスラム国」)との戦闘のために結成され、2016年にイラク軍に編入された。もともと、イラクのシーア派民兵組織は、イランの強い影響化にある。ソレイマニ、ムハンディス両氏殺害を受けて、彼らが在イラク米軍等への攻撃を激化させることが予想される。実際、すでにロケット弾が米国大使館近くや米軍基地に撃ち込まれている。一方、米軍もPMFの車列を空爆するなど、事態は米軍対PMFの様相も見せ始めている。

日本は両国に自制促せ

さらにトランプ大統領は、中東への米軍増派も行なうとしている。つまり、イラクが米国とイランの代理戦争の舞台にされようとしている。ISとの戦いで疲弊した同国の復興をさらに遅らせ、戦禍に苦しんできた人々が、またしても危険にさらされることである。

中東での情勢悪化は、日本にも悪影響が及ぶことが懸念される。イランの報復の矛先は主にイラク駐留米軍などに向けられるだろうが、原油価格を高騰させ、米国やその協力国に揺さぶりをかけるため、ホルムズ海峡を封鎖する可能性も指摘されている。その場合、輸入原油の8割以上が同海峡を経由する日本にとっては深刻な打撃となる。

又市党首が指摘する通り、核合意から一方的に米国が離脱したことこそ、そもそもの発端であり、核合意は国連安保理が支持すると決議したもの(第2231号)。日本がやるべきことは海自の派遣ではなく、米国とイランに報復の自制を求めると同時に、米国に対し核合意の枠組みに戻るよう、強く求めることである。

イスラエルが米国に「イラン攻撃」へ誘導

●孫崎享さんのコメント

元外務省国際情報局長の孫崎享さんはソレイマニ司令官殺害事件の背景について次のようにコメントした。

今日、中東では、イスラム教のスンニ派とシーア派の対立が続き、武力紛争の主要要因となっている。シリア、サウジ国内、湾岸諸国、イエメンで顕著だ。シーア派を支援するのがイランであり、シーア派の軍事行動では多くの場合、イランの革命防衛隊内のコッズ軍が関与し、司令官はソレイマニ将軍である。従って米国国内で将軍暗殺構想が出ていた。だが、ブッシュ政権もオバマ政権も、殺害後のイランの報復活動が中東を大混乱に招くとして、殺害計画を断念した。

しかしトランプ大統領は殺害に踏み切った。トランプ大統領の政策は次の大統領選にいかに勝利するかという動機に基づく。今日、米国国民は、イスラム社会を敵視し、これとの対決姿勢を歓迎している。イランは報復を宣言し行動に出る。だが状況が緊迫すれば軍事活動が増え、補給を行なう民間企業は潤う。米国の武器輸出も促進する。また、イスラエルが米国をイラン攻撃に誘導している側面も見逃してはならない。

(社会新報2020年1月15日号より)