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受験生は実験台か!? 大学英語民間試験導入は延期しゼロから見直しを

カテゴリー:文部科学 投稿日:2019-10-30

「私たちを実験台にしないでください」――。10月1日に国会内で開かれた「第2回英語民間試験導入問題・野党合同ヒアリング」で高校2年の女子生徒が文科省に強く訴えた。

2020年度の大学入試(21年4月入学のための試験=対象者は主に現在の高2生)から、現行の大学入試センター試験が大学入学共通テストに名称を変える。この入試改革の大きな柱の一つが、マークシート方式の共通テストに英語の民間試験の結果を加えることにある。

受験生は11月から民間試験のID登録を行なえば、来年4月から始まる英語の民間試験を2回まで受けることができる。

現在の高校2年生、そして来年1月の入試で浪人した学生も、来年4月からの民間試験や検定を受けなければ、多くの大学で入試の受験資格すら得られない。

ところが、試験の準備は遅れに遅れている。下の表は大学受験に活用される英語の民間試験の概要だ。6実施団体(事業者)による22種類の資格・検定試験が対象。ところが、試験開始の半年前に当たる現段階でも、試験会場の詳細は不明。実施時期が決まっていない試験すら存在する。

高校長ら延期要請

また、大学側の英語民間試験利用予定の全体像が、10月初めになってようやく文科省から公表された。総大学数1068のうち、利用予定大学数は561。「全く利用しない」「共通テストに加点する」「加点はしないが出願要件として利用する」など、大学ごとでバラバラの対応だ。入試の試験方法が大きく変わる際には2年程度前に予告・公表すべきことが文科省の「大学入学者選抜実施要領」に定められている。今回の入試改革は、文科省自らが定めたルールさえ犯しているのは明白だ。

この現状を踏まえ、全国高校長協会は9月、文科省に対して英語民間試験導入延期を申し入れた。異例の事態である。

問題①
ぶっつけ本番実施

混乱の原因は、準備の遅れにとどまらない。問題の第1は、メジャーな検定試験が実施対象になるよう、事業者の参加要件を曖昧にした点だ。入試センターと文科省で決めた事業者の参加要件では、対象となる試験が国内で2年以上の実績を持つこと、さらに全国47都道府県での試験実施を「原則」とした。しかし、「ただし」書きで、実績のある事業者は個別試験の2年以上の試験実績を不問にし、開催場所も当面は全国10ヵ所以上で可とした。結果、22種類の試験の多くが今回の入試改革に合わせて開発され、実績が乏しいにもかかわらず、ほぼぶっつけ本番で実施される。

試験の開催場所も、全都道府県で行なわれる試験はGTECと英検に限られてしまった。

問題②
公平性著しく欠く

第2の問題は「公平性」を著しく欠くこと。全国10ヵ所での開催はもとより、47都道府県で実施されたとしても会場が1ヵ所ならば、居住地によって移動・宿泊の負担が生じる。

また、表にもあるように検定料はバラバラ。最高額の2万5380円の試験を2回受験し、共通テスト受験料1万8000円を加えると入試だけで7万円近くかかる。ましてや、民間試験でいいスコアを上げようとすれば、塾に通う、問題集をそろえるなどの負担が加わる。大学進学に際し、家計所得の格差がこれまで以上の影響を与えかねない。

問題③
評価基準が不正確

第3の問題は評価基準が正確性を欠く点だ。22の民間試験の各得点はCEFR(セファール=欧州言語共通参照枠。メモ参照)という基準によって6ランクに平準化される。

しかし、22種類の試験の各得点がCEFRのどのランクに位置するかは、各実施団体が決めた言い値であり、文科省の作業部会で真剣に検証した形跡は見当たらない。

もともと民間英語の各種試験は、ビジネス用、留学用、そして英検のような資格取得用など異なった目的で開発された。それを平準化して評価しようとすることは、短距離走の選手と砲丸投げの選手の記録を比べて、どちらが陸上選手として優秀なのか採点するようなものだ。

問題④
前倒しされる受験

最後に学校現場の問題である。民間英語試験が4月から開始される。受験戦争の前倒しだ。部活に励む高校3年生は、成果を競う練習のピーク時に英語の民間試験を受けることになる。22種類の試験への対応・対策を迫られる教員の負担も激増することが予想されるが、文科省には何の対策もない。

萩生田光一文科相は1日の会見で、来年から実施される英語民間試験は「精度向上期間」にあると述べた。冒頭の女子生徒の悲痛な訴えに対し、「精度を上げるために実験台になってもらいます」と言っているようなものだ。受験生の人生を実験台にするような入試制度は延期した上でゼロから見直すのが筋だろう。

(社会新報2019年10月30日号より)