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表現の自由に公権力が介入

カテゴリー:外交安保 憲法 投稿日:2019-09-06

望月衣塑子さんインタビュー 「表現の不自由展・その後」展示中止問題を考える

戦時性暴力の本質問う展示の再開を

望月衣塑子――愛知県で開催中の国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」で中止になった企画展「表現の不自由展・その後」についてどう感じるか。

望月衣塑子・東京新聞社会部記者 出品された慰安婦を象徴する「平和の少女像」について、直近では神奈川県の黒岩祐治知事が8月27日、「税金を使って後押しするのは、表現の自由より、政治的メッセージを後押しすることになる。県民の理解を得られない」とまで言及。表現の自由(メモ参照)に対して公権力が介入するような発言が続いた。

官房長官が補助金介入

菅義偉官房長官も補助金交付の可否決定に関する私の質問に対して、「税金の使途に関して詳細に調査・検証したい」と2回も答弁。公権力介入への自己抑制、歯止めのようなものがなくなっていることに危機感を覚えた。

トリエンナーレには、脅迫のメールや電話・FAXが5700本近く、主催者側に寄せられ、開催から3日で中止に追い込まれた。以前、実行委員の岡本有桂さんらが展示をやった時も大変な抗議があったので、それなりの覚悟を持って準備はしたものの、「ガソリン」テロ予告などがあり、結果的に、主催者は言論弾圧に屈してしまった。

近年、9条俳句が公民館だよりに掲載できなくなる事件などがあり、言論と表現の自由が脅かされる息苦しい状況となっている。

「表現の不自由展・その後」は、公共の文化施設で「タブー」とされがちな作品がいかにして「排除」されたのか、その表現の不自由さを伝えるための展示、というコンセプトだった。橋下徹元大阪府知事は「平和の少女像」とは正反対の主張の作品を両論併記で展示にすれば良かったと指摘していたが、展示のコンセプトを理解していないといえまいか。

私自身の話で言えば、官房長官会見に出始めたころ、2本の脅迫電話が東京新聞の本社に入り、会社から「身の危険があるので、出ないでほしい」と止められ、しばらく会見に出られなくなった。今回の5700本に比べれば、たった2本の脅迫電話だった。私の場合よりも数千倍もの脅迫が続いたわけだから、想像を絶する大変さだったと思う。私も会社側にいろいろ説明しながら徐々に講演に出させてもらうようになった。あいちトリエンナーレでは、もう一度、本来伝えようとした展示を再開してほしい。

「少女像」の本質をみて

――元日本軍「慰安婦」を題材とした「平和の少女像」に関してはどう思うか。

望月 制作した彫刻家のキム・ソギョンさんとキム・ウンソンさん夫妻は、ベトナム戦争で韓国軍によって虐げられた「親子の像」も制作している。国籍や政治的イシューと切り離し、戦時下に最も苦しめられた人たちを表現しようとしたものだ。国家とか政治を超え、戦時性暴力によって苦しめられ、声を上げられなかった人々の声なき声を伝えようとしている。

シリアなど中東の紛争地では、現在も多くの子どもたちが日々、政府側の空爆で死傷している。あの像が問いかけている、現在に通じるもっと本質的な問いかけを見るべきではないだろうか。

現在、元記者による性的暴行を訴えたジャーナリストの伊藤詩織さんをはじめとして、「#MeToo」「#WeToo」の運動が起きている。自分の身の周りに起きたパワハラ、セクハラを告発し、女性たちが声を上げる世界的な運動とつながっている。「#MeToo」の先駆的なものとして、元日本軍「慰安婦」による告発があったと思う。国家を超えて、性的な迫害や暴行を受けた女性たちの声をきちんと社会が受け止め、戦争を二度と繰り返さないために何ができるかを考え続けなければならない。

ブレない社民党に期待

――社民党について一言お願いできれば。

望月 参院選で社民党が得票率2%の政党要件に達して、ホッとした。

憲法や脱原発、辺野古問題を軸にブレない社民党が国会には必要だと有権者は考えているのではないか。また立憲野党やれいわ新選組と市民の共同の戦いで、32ある1人区のうち10選挙区で勝利するなど一定の成果を上げている。こうした流れを来る総選挙でも前進させてほしい。

「徴用工」の個人の請求権は生きてる
日韓の関係悪化は経済にもマイナス

――2018年10月30日、徴用工裁判で、韓国の最高裁に当たる大法院が新日本製鉄(現新日鉄住金)に対して韓国人4人に1人当たり1億ウォン(約1000万円)の損害賠償を命じた。安倍内閣はこの判決に対して「暴挙」と反発し、対韓国輸出規制強化に踏み込んだが、どう考えるか。

望月 そもそも1965年の日韓請求権協定では外交保護権(個人の請求権を基礎とし外国と交渉する国家の権利)を日韓が相互に放棄したのであって、個人の請求権を消滅させたものではない。そのことは日本政府も認めてきたことだ。

日本政府は徴用工に関する韓国大法院の判決について「完全かつ最終的に解決された」とする日韓請求権協定に違反すると主張する。そして、これは7月3日の党首討論における首相の発言からも明らかだが、その意趣返しとして「ホワイト国」から韓国を除外するという対韓国輸出規制の強化に踏み込んだ。後付けで表向きには純粋に輸出管理だと言い張るが、世耕弘成経済産業相のツイッタ―には、徴用工問題で前進が見られなかったので輸出管理を強化するといった趣旨のツイートもあり、本音がのぞく。

いずれにせよ、現在の日韓の緊張は、日韓の民間の交流や経済活動にものすごいマイナスだ。菅長官はインバウンド(訪日外国人旅行)が全体では増えていると苦し紛れに説明したが、成田空港の入国者数は3割近く減少し、韓国人観光客は明らかに落ち込んでいる。

――韓国の人々が日本に対して懸念しているのは何か。

望月 1910年の日韓併合以降の朝鮮植民地支配について、65年当時の日本政府は合法だと主張し、一方、韓国政府は違法だと主張し、双方の折り合いが付かないまま棚上げされ、65年の日韓請求権協定は締結された。一方、大法院判決は、この植民地支配を違法な人権侵害と認定し、人権侵害行為に対して日本企業が被害者に損害賠償すべきだとの判決を下した。

韓国の人々が懸念しているのは、賠償問題よりも、安倍政権が長期化する中で、日本が朝鮮半島への侵略と植民地支配という加害の歴史を消し去ろうとしているのではないかということだ。加害の歴史を忘れれば、また再び、同じ過ちを繰り返すことになる。

日韓の交流では若者たちがファッションとか文化とかでお互いの親近感の高まりもあって、世代間で共有されている。だから抗議のプラカードにも「NOアベ、でも日本はYes」みたいな区分けをしている

加害の責任を日本が忘れ去ると懸念
日韓請求権協定の腐敗生む「岸信介」

――日韓請求権協定について韓国では調査報道が注目されているが、どのような内容なのか。

望月 韓国JTBCの番組(8月5日放映)では、65年の日韓請求権協定の8億㌦が実際にどう使われたのか詳しく調査報道を行ない、韓国では大変な反響を呼んだ。

日韓請求権協定で日本による援助金は、無償協力基金3億㌦、有償借款2億㌦、産業借款3億㌦の合計8億㌦。日本の外務省は、日本の援助によって韓国経済が発展できたとし、その代表例としてソウル地下鉄や浦項製鉄所の建設を挙げる。徴用工への個人賠償は協定の支援金に含まれ、韓国政府が日本に代わって支払うものだと主張する。

実際のソウル首都圏地下鉄事業はどうだったのか。71年から着工し、建設資金は日本から借りた8000万㌦。4%の金利で、日本企業が作った車両と部品のみを使用するという条件。ソウル首都圏地下鉄を受注したのは戦犯企業の旧財閥系商社が主導した合弁事業だった。89億円くらいの落札が、1年後に日本の旧財閥系商社が材料費の高騰を理由に118億円と40%もアップさせた。調べていくと旧財閥系商社から朴正煕軍事政権の韓国政治家に22億円のリベートが渡っていた。こうした腐敗の枠組みをつくった日韓経済協力委員会のトップが岸信介元首相だった。岸は満州を含めた植民地支配を推し進めたA級戦犯容疑者。その岸の孫が安倍首相だ。番組では、65年当時、日本の国会で社会党議員が「植民地支配の連続ではないか」と追及する国会議事録も紹介していた。

韓国政府が3億㌦の無償協力基金の中から徴用工に支払ったのは、最低でも70万人はいたとされる徴用工のうち、日本の敗戦後に亡くなられた約8500人の徴用工の遺族だけだった。こうした実態をみるとき、日本がいくら日韓請求権協定で「完全かつ最終的に解決された」と主張しても、韓国民衆にとってその協定は一体誰のためのものだったのか、納得できない思いがあるのだろう。

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【表現の自由】 日本国憲法第21条で保障されている権利で、すべての見解を検閲されたり、規制されたりすることなく表明する権利のこと。外部に向かって思想・意見・主張・感情などを表現し、発表する自由が保障される。個人におけるそうした自由だけでなく、報道・出版・放送・映画の自由などを含む。

(社会新報2019年9月11日号より)