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憲法コラム

第174回(9月19日):照屋寛徳 議員

奨学金問題と「経済的徴兵制」

【写真】本土復帰前の沖縄で、琉球政府立法院(現沖縄県議会)が定めた「琉球育英会法」

名護市議選、稲嶺与党多数について報じる9月8日付沖縄二紙

 初めて公に告白する。私は、高校・大学生の時に育英会の奨学金を受けていた。

 私は、ヒンスーハルサー(貧乏農家)の9人兄弟の3男坊として育った。サトウキビ生産と家庭養豚で得る収入が、わが家の主な収入源で、基本的には農業生産による自給自足の生活であった。

 当時は高校・大学への進学率も現在より低く、望めば必ず入学できるような「高校・大学全入時代」ではなかった。貧乏な時代にあって、極貧とまではいかないが、「貧乏子だくさん」のわが家も決して裕福な家庭ではなかった。

 そのような家計事情の中で、育英会の奨学金を受けることになったのである。

 私自身が奨学金の受給経験があること、また、政治家として貧困や格差の問題、奨学金の返還に苦しんでいる大学生・大学院生らの悲痛な声を直に耳にしてきたので、いわゆる奨学金問題については理解しているつもりであった。

 ところが、去る9月3日付東京新聞「こちら特報部」欄に奨学金に関する記事を見つけ、読み終わる同時に目眩を覚えるくらいの衝撃を受けた。

 「奨学金返還に『防衛省で就業体験』」「貧困層に『経済的徴兵制』?」との見出しを付した同記事は、奨学金返還の延滞者について、経済同友会専務理事・前原金一氏の次のような発言に触れている。

 前原氏の発言は、去る5月に開催された文科省の有識者会議「学生への経済的支援の在り方に関する検討会」の場で飛び出したらしい。

 同氏は席上、奨学金返還問題が話題になった際に「『返還の延滞者が無職なのか教えてほしい。放っておいても良い就職はできない。防衛省などに頼み、一年とか二年とかインターンシップをやってもらえれば就職は良くなる。防衛省は考えてもいいと言っている』と促した。文科省の担当者は『考えてみます』と引き取ったものの、検討会が8月29日に公表した報告書には盛り込まれなかった」―とのことだ。(9月3日付東京新聞)

 前記東京新聞記事は、前原氏の発言を「経済的徴兵制」と関連づけて論じている。

 「経済的徴兵制」とは、徴兵制を敷かなくても、多くの若者たちが貧乏を理由に軍隊に入ることを指す言葉だ。現に徴兵義務のない米国では、兵士を確保するために国防総省が奨学金の返還を肩代わりする制度があるようだ。

 格差社会が進行する米国では貧困層が多い。1%の富裕層がその他の99%の国民を経済的に支配しているのだ。結果として、貧困層の若者たちは、奨学金返還を肩代わりしてもらうべく兵士になることを志願する。いや、志願せざるを得ない。

 「米国は志願兵制を取るが、貧困層の若者が兵士になる例が非常に多い」。(藤本一美専修大学名誉教授・政治学)

 貧困層の若者にとっては、兵士以外の選択を奪われた「経済的徴兵制」なのだ―との結論を前記東京新聞記事は導いている。

 「経済的徴兵制」については、ご理解を得られたと思う。結局、前原氏の発言は、奨学金延滞者に対し、暗に米国の奨学金肩代わり制度の導入、すなわち「経済的徴兵制」の導入を勧めたに等しい。

 私が、琉球政府立(現・県立)前原高等学校に進学したのは1961年である。私の記憶では、当時5ドルの奨学金付与を受けていた。それが毎月か、年に3〜4回の受給だったのかは忘れてしまったが、本土「復帰前」でドル経済の沖縄にあって、5ドルの給与はありがたかった。

 実は、施政権が日本から分離され、アメリカの軍事支配下にあった当時の沖縄でも、琉球育英会法(琉球政府立法院・1952年立法第35号)が成立していた。

 琉球育英会法は第1条で「琉球育英会は、優秀な学徒で経済的な理由に因って修学困難なものに対して学費を貸与又は給与し、その他育英上必要な業務を行つて有用の人材を養成することを目的とする」と謳っている。

 私の場合、「優秀な学徒」ではなかったが、「経済的な理由で修学困難なもの」には該当したようだ。たしか、5段階評価の通知表で、全教科総合で平均4.3以上の者から選抜されたように記憶している。

 私は、1964年4月に琉球政府立(のちに国立、現・国立大学法人)琉球大学に入学した。

 琉大在学中も琉球育英会から毎月10ドルの奨学金貸与を受けていた。今の為替ルートでこそ1,000円余であるが、1ドル360円で、今よりずっと物価が低い時代の10ドルは大変ありがたかった。(その貸与奨学金は弁護士になってから一括返済した)

 琉球育英会からの奨学金の他に、在沖米軍将校夫人クラブから返還義務のない毎月20ドルの奨学金も受給していた。(そのせいか、卒業後は「反米」でなく「反米軍」との考えになった。それも基地あるが故の事件・事故が絶えないからだ)

 貸与にあたっては琉球育英会、在沖米軍将校夫人クラブともに選抜試験があったような気がする。いずれにしろ、両奨学金のおかげで実家からの仕送りも少額で済み、不定期の家庭教師のアルバイトのみで無事に学生生活を送ることができた。

 さて、私の高校・大学時代とは様変わりし、4年生大学への進学率は2009年で50.2%に達した。高校進学率は90%を超えて久しいが、今や「大学全入時代」「大学のユニバーサル化」時代の到来だ。

 大学院生も増えている。文科省の平成24年度統計によると、修士課程在籍者が168,903人、博士課程在学者が74,316人、専門職学位課程在籍者が20,070人―である。

 その一方で、奨学金を受給している学生の割合も激増している。日本学生支援機構の平成22年度「学生生活調査」によると、大学学部(昼間部)50.7%、大学院修士課程59.5%、大学院博士課程65.5%―となっている。

 現下の社会経済状況は、深刻な不況を受けての雇用情勢の悪化(特に、非正規雇用の増大)、格差拡大による貧困の階層化などが進み、奨学金の返還延滞問題が絶望的に深刻である。それに伴う「ブラックバイト」問題も起きている。

 2011年度の奨学金延滞者は約33万人に上る。返済を延滞すると、彼らには年率10%の延滞金が加算される。3カ月の延滞で、個人情報機関のブラックリストにも掲載される。

 憲法第26条1項は「すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する」と定めている。

 教育を受ける権利とは、国民が国に対して要求できる基本的人権のひとつであり、社会権に属している。国民のそうした権利が実現できるよう、国には必要な措置を講ずる義務がある。

 国民一人びとりが成長・発達するため、自己の人格を完成・実現するために、必要な学習をおこなう権利としての学習権も保障されるべきである。

 病気や雇用悪化で就職困難な奨学金延滞者を対象とした返還免除制の確立など、奨学金制度をより拡充し、憲法が定める国民(特に若者たち)の教育を受ける権利を保障せねばならない。

 「経済的徴兵制」社会の到来を許してはならない。今こそ政治と政治家の責任が問われている。

(2014年9月19日 社民党衆議院議員 照屋寛徳)

 

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