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憲法コラム

第158回(6月3日):照屋寛徳 議員

憲法をハイジャックした犯人は何者だ?

【写真】 国民安保法制懇 設立記者会見

国民安保法制懇 設立記者会見

 近頃、「安保法制懇」なるものがマスコミを賑わしている。「安保法制懇」の正式名称は「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」という舌を噛みそうな長い名前だ。

 「安保法制懇」は、「我が国周辺の安全保障環境が一層厳しさを増す中、それにふさわしい対応を可能とするよう安全保障の法的基盤を再構築する必要があるとの問題意識の下、集団的自衛権の問題を含めた、憲法との関係の整理につき研究を行うため」、内閣総理大臣の下に設置された私的諮問機関である。

 本コラムでは、この「安保法制懇」を便宜上、「安倍安保法制懇」と命名する。

 長らく歴史の記憶に残すため、「安倍安保法制懇」の構成員を列記する。

 岩間陽子(政策研究大学院大学教授)

 岡崎久彦(NPO法人岡崎研究所所長・理事長)

 葛西敬之(JR東海代表取締役名誉会長)

 北岡伸一(国際大学学長・政策研究大学院大学教授、座長代理)

 坂元一哉(大阪大学大学院教授)

 佐瀬昌盛(防衛大学校名誉教授)

 佐藤謙(元防衛事務次官)

 田中明彦(独立行政法人国際協力機構理事長)

 中西寛(京都大学大学院教授)

 西修(駒澤大学名誉教授・憲法学)

 西元徹也(元統合幕僚会議議長)

 細谷雄一(慶應義塾大学教授)

 村瀬信也(上智大学名誉教授)

 柳井俊二(元外務事務次官、座長)

以上14名であるが、全員が安倍総理のお友達であり、全員が集団的自衛権行使容認論者である。「安倍安保法制懇」の設置趣旨には、「集団的自衛権の問題を含めた、憲法との関係の整理につき研究を行うため」とあるが、憲法が専門の学者はたった1人しかおらない。

 そんな「安倍安保法制懇」に何の権威も正当性もなく、あるのは安倍総理が狙っている早期の憲法解釈変更による集団的自衛権行使容認を、屁理屈をこねて、さも客観性、普遍性があるか如く装うためだけの組織なのだ。

 「安倍安保法制懇」の正体がバレバレになったのは、北岡伸一座長代理が報告書提出後の去る5月19日、自民党会合で語った次の発言である。

 「安保法制懇に正統性がないと(新聞に)書かれるが、首相の私的懇談会だから、そもそもあるわけがない」――と(正直でいいね!)。

 北岡氏は、安保法制懇のメンバーに集団的自衛権の行使に反対する人がいない、という報道についても「自分と意見の違う人を入れてどうするのか。日本のあしき平等主義だ」と強調し、「安全保障の専門家は集団的自衛権に反対の人はほとんどいない」と持論を展開したようだ(5月20日付朝日新聞)。持論を超えて独断と偏見だ。

 このように、北岡氏の発言は、身内の自民党会合とはいえ、傲岸不遜で鼻持ちならない。

 「安倍安保法制懇」のメンバー、報告書提出前後の北岡氏の発言等を総合するに、報告書の結論は、十分に推察できた。

 案の定、去る5月15日、「安倍安保法制懇」は、集団的自衛権行使容認の報告書を公表した。その直後の記者会見で、安倍総理が「基本的方向」を発表し、現在、武力攻撃に至らない侵害への対処(いわゆるグレーゾーン事態)4事例(3事例+参考事例)、国連PKOを含む国際協力等4事例、「武力の行使」に当たり得る活動8事例、合計15事例を中心に与党内協議をおこない、早期の閣議決定を急いでいる。

 この「安倍安保法制懇」に対抗する「国民安保法制懇」が去る5月28日に発足した。「対抗する」との表現は、いささか正確さを欠いたかも知れない。安倍政権が目指す集団的自衛権の行使容認(解釈改憲)に反対する懇談会、と見るのが正確であろう。

 公正・公平を期すために「国民安保法制懇」のメンバーを紹介しよう。

 愛敬浩二(名古屋大大学院教授・憲法)

 青井未帆(学習院大教授・憲法)

 伊勢崎賢治(東京外国語大大学院教授・平和構築・紛争予防)

 伊藤真(弁護士)

 大森政輔(元内閣法制局長官)

 小林節(慶応大学名誉教授・憲法)

 阪田雅裕(元内閣法制局長官)

 長谷部恭男(早稲田大学教授・憲法)

 樋口陽一(東京大学名誉教授)

 孫崎享(元外務省国際情報局長)

 最上敏樹(早稲田大学教授・国際法)

 柳沢協二(元内閣官房副長官補)

どうです、二つの安保法制懇のメンバーをご覧になって、どちらの安保法制懇が学問的、実務的な専門性に照らし、集団的自衛権問題について、公正で、憲法と国際法に関する真っ当な判断ができるか、読者の皆さんには一目瞭然だろうと思う。

 「国民安保法制懇」は、その設立宣言の末尾に次のように書き記している。

 「政府の恣意的な『解釈変更』によって、これまで憲法が禁止してきた集団的自衛権行使を可能にすることは、憲法が統治権力に課している縛りを政府自らが取り外すことに他ならず、立憲主義の破壊に等しい歴史的暴挙と言わざるを得ない。

 私たちは、主権者である国民としてこの暴挙を黙認することは到底できない。かかる立憲主義の破壊に抗うべく、憲法、国際法、安全保障などの分野の専門家、実務家が結集し、ここに『国民安保法制懇』を設立する。」

 「国民安保法制懇」の設立会見で、改憲派憲法学者の小林節氏は、次のように語っている。

 「憲法9条は少なくとも海外派兵を許していないのは動かせない事実だ。主権者の国民が憲法で権力者を管理するはずなのに、権力者が逆に憲法を変えて海外派兵に付き合いなさいというのは主客転倒。憲法のハイジャックだ。」

 大森政輔氏は、「安保法制懇の報告書は、首相の希望する方向にまず結論が先にあり、理由付けは牽強付会(けんきょうふかい)だ。」

 孫崎享氏は「(安倍政権が考える)集団的自衛権は基本的には米軍の傭兵(ようへい)になるシステムだ」――と(5月29日付東京新聞)。

 「憲法のハイジャック」、憲法に関する小林節教授の造語には、いつもながら軽い眩暈を覚えるが、言い得て妙だ。私流に言うと「憲法のクーデター」「憲法のテロ」だ。

 今年の夏には「国民安保法制懇」の報告書が出るという。期待して待とう。

(2014年6月3日 社民党衆議院議員 照屋寛徳)

 

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