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憲法コラム

第122回(10月22日):照屋寛徳 議員

軍靴の響きの高まりと教育の国家統制

軍靴の響きの高まりと教育の国家統制

 戦争はある日突然に始まるのではない。国家が戦争を準備し、突入する時には、その前段で教育に対する国家統制が巧妙に仕込まれる。そして、教育の国家統制は、学校現場で子ども達が使用する教科書の国家統制も同時に始まるのだ。「戦争は教育から始まる」と言われるが、まさに至言である。私は、軍靴の響きの高まりは、教育の国家統制の始まりの予鈴だと思っている。

 今、日本中に、特に沖縄では戦争の始まりにつながる教育の国家統制の予鈴が不気味に鳴り響いている。

 教育の国家統制問題を論ずる前に、教育と憲法について考えてみよう。日本国憲法第26条は、教育を受ける権利、教育を受けさせる義務、義務教育の無償について、次のように定めている。

 「すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。
 Aすべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。」――と。

 憲法第26条について、わが国の裁判上の判例においては「本条は、子どもの教育は教育を施す者の支配的権能ではなく、子どもの学習する権利に対応し、その充足を図りうる立場にある者の責務に属することを定めるが、このような教育の内容・方法をだれがいかにして決定するかを直接一義的に定めるものではない」とする。憲法第26条2項との関連では、次のような最高裁判例がある。

 「憲法の義務教育は無償とするとの規定は、国が義務教育を提供するにつき対価すなわち授業料を徴収しないことを意味し、このほかに教科書、学用品その他教育に必要な一切の費用まで無償としなければならないことを定めたものではない。」――昭和39年2月26日、最高裁大法廷判決――

 憲法第26条を受けて、「義務教育諸学校の教科用図書の無償に関する法律」(昭和37年4月1日公布)が制定され、同法第1条は「義務教育諸学校の教科用図書は無償とする。」と定めている。そして、義務教育で使用する教科書を無償配布するための具体的方法や教科書採択などの仕組みを定めた法律が「義務教育諸学校の教科用図書の無償措置に関する法律」(教科書無償措置法)である。

 第一次安倍内閣の下で、教育基本法が全面改正され、教育の国家統制は改憲による「戦争ができる国づくり」に先行して始まっている。先に言及した沖縄における教育の国家統制の予鈴は、「教科書無償措置法」と「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」(地方教育行政法)の矛盾・衝突の中で、国家権力からの恫喝として沖縄県竹富町に鳴り響いている。

 事の発端は、2011年8月、沖縄県石垣市、竹富町、与那国町で構成する教科書採択八重山地区協議会が、「新しい歴史教科書をつくる会」系の育鵬社版中学公民教科書を選び、一市二町の教育委員会に答申したことである。答申を受けた石垣市と与那国町は育鵬社版、竹富町は東京書籍版を採択した。沖縄県教育委員会の指導助言で3市町の教育委員が全体会議を開いて、「同一教科書」の採択に向け再協議したところ、石垣市と与那国町は「再協議するのは不服」として退席し、多数決で東京書籍版が選ばれたのだ。

 結局のところ、文科省は採択地区協議会の「規約に従ってまとめられた結果」に従うよう指示し、竹富町はこれに従わず、東京書籍版を使うこととし、今日に至っている。文科省は、違法状態にあると不満を表明し、竹富町に教科書の無償給与する事をやめている。竹富町では、保護者や教員OB有志らからのカンパで教科書を購入し、2012年度、2013年度で中学3年生に計50冊(4万円弱)を配布してきた。

 文科省は、「採択地区ごとに同一の教科書を選ぶ」ことを定める「教科書無償措置法」第13条4項を盾に竹富町に育鵬社版の採用を迫る。一方、竹富町は「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」(地方教育行政法)第23条6号の規定を根拠に、その正当性を主張する。たしかに竹富町の主張のように、「地方教育行政法」第23条6号には「教科書その他の教材の取扱いに関すること」は、教育委員会が管理し、執行すると定めている。竹富町の言い分は正しい。違法は存在しないのだ。

 文科省は、去る10月18日、沖縄県教育委員会に対し、竹富町が中学校で使っている公民教科書を育鵬社版へと是正要求するよう指示をした。竹富町教育委員会は文科省の是正要求に改善措置を取る義務は負うが、従わなくとも罰則はない。是正要求に不服なら「国地方係争処理委員会」への審査申し出も可能だ。逆に、従わない自治体に対し国が違法確認訴訟を提起することも可能だ。

 文科省は、「地方教育行政法」と「教科書無償措置法」の矛盾・衝突を放置しておきながら、竹富町教育委員会を悪者扱いする。私に言わせると、二つの法律の矛盾・衝突を放置してきた文科省が一番の悪者だ。文科省は、地方自治法の是正要求という強権発動をして、原発や基地、憲法問題で極めて保守的な記述が多い育鵬社版公民教科書を押しつけることによって、教育行政と教育現場及び教科書の国家統制を図ろうとしているのだ。

 竹富町の中学校公民教科書問題の背景には、安倍内閣の改憲による「戦争ができる国づくり」がある。教育の国家統制を断じて許してはいけない。

(2013年10月22日 社民党衆議院議員 照屋寛徳)


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