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憲法コラム

第111回(9月17日):照屋寛徳 議員

緊急事態条項と軍隊・戦争

【自民党「日本国憲法改正草案」】 公開中 (PDFファイルが別ウィンドウで開きます)
http://www5.sdp.or.jp/policy/policy/constitution/critic/img/constitution2013.pdf

自民党「日本国憲法改正草案」公開中

 「異常事態」「非常事態」「緊急事態」の概念は、似ているようでもあるが、政治論・憲法論で厳密に考えると、違う概念と捉えねばいかないのだろう。

 さて、米軍機が受忍限度をはるかに超えた「殺人的爆音」を撒き散らし、欠陥機オスプレイが頭上を飛び交い、戦闘機や大型ヘリが幾度となく墜落炎上し、駐留する米軍人・軍属らの凶悪卑劣な事件・事故等が頻発する沖縄の日常は、間違いなく「異常事態」である。

 「非常事態」を、《通常ではとうてい律することが出来ない様子》《平穏な市民生活の夢を破る予測不能の出来事》と考えた場合、「沖縄の日常」は、間違いなく「非常事態」でもある。私は、被害妄想や大袈裟に言っているのではない。多くの県民の素直な思いだ。ウチナーとウチナーンチュには、日本国憲法の平和的生存権は保障されていないのだ。

 一方の、「緊急事態」とは、市民生活レベルを超えた、国家の存立がかかわる、または国際的危機に面した事態である。今回は、自民党「日本国憲法改正草案」が第9章「緊急事態」を新設しているので、敢えて「非常事態」と「緊急事態」を区別して、「緊急事態」について考えてみた。(私が衆議院憲法審査会の委員の頃、改憲派議員からは「非常事態条項」の追加とか「緊急事態条項」の追加などと、主張されていた。)

 私の乏しい知識、あるいは勘違いなのかも知れないが、改憲のうえ「緊急事態条項」を新設挿入すべきとの改憲派国会議員らの主張は、2011年3月11日の東日本大震災以降に強まったように思う。「3・11の大震災と福島第一原発事故」の未曾有の被害を機会に憲法に「緊急事態条項」を新設することが声高に叫ばれ、一定の改憲への支持を広げているのでは、と考えるのである。

 憲法論的に言うと、「緊急事態」とは戦争のことを意味する。たしかに、現行日本国憲法には「緊急事態条項」の規定はない。わが国は、憲法第9条で軍隊を保持せず、交戦権を否認し、戦争をしない国と宣言しているのであるから、憲法上「緊急事態条項」の規定がないのだ。逆に、軍隊を持ち、戦争をする「普通の国」は、憲法上「緊急事態条項」を持っている。

 自民党「日本国憲法改正草案」第98条は、「内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる。」と定めている。その上で、同99条で緊急事態宣言の効果について、細かく規定している。特に、自民党「日本国憲法改正草案」第99条3項は、いわゆる緊急事態指示服従義務を国民に課しており、同条項は、立憲主義の精神に反し、国民の基本的人権を大きく制限するものであって、要警戒である。(是非、自民党「日本国憲法改正草案」第9章「緊急事態」を眼光紙背に徹して読み込んで頂きたい。いかに危険な改憲案かが一目瞭然だ。)

 ところで、大日本帝国憲法(明治憲法)にも、「緊急事態条項」の定めがあった。具体的には、明治憲法第8条で天皇は緊急勅令を発布する権限を有していた。勅令とは、天皇が発した法的効力のある命令のことである。明治憲法第14条は「戒厳」、第31条は「非常大権」、第70条は「緊急財政処分」を規定している。その明治憲法の「緊急事態条項」は時の権力者によって濫用され、人権と人としての尊厳を無視し、戦争への道を暴走する遠因となった。自民党「日本国憲法改正草案」の緊急事態条項は、明治憲法の緊急事態条項の焼き直しだ、と言ったら言いすぎか。そうではあるまい。

 「緊急事態条項」は、本来的に緊急事態への対処を理由として、全ての権力を内閣に集中させようというものである。その場合に、憲法の規律や国会のコントロールを逃れて、国民の基本的人権は大幅に制限されるのである。憲法の立憲主義の精神も容易に否定されることになりかねない。

 何よりも、私が自民党「日本国憲法改正草案」第98条の「緊急事態条項」で心配するのは、緊急事態宣言を行う状況として例示されている「内乱等」「地震等」などと概念自体のの曖昧さであり、「その他の法律で定める緊急事態」という、何が緊急事態なのかを法律で無制限に決められることである。

 先に、改憲派国会議員の多くから、「3・11大震災と福島第一原発事故」を契機にして、改憲のうえ「緊急事態条項」新設が叫ばれた、と書いたが、自然災害を憲法上の緊急事態と定める国はわずかであり、改憲派は自然災害対策を口実に、「天皇を元首に」「自衛隊を国防軍」にして、戦争への備えを進めようとしているのだ。騙されてはいけない。大災害の場合でも、現にある個別法を積極活用する事で、スピーディに被災者と被災地を守ることは可能なのだ。

 

(2013年9月17日 社民党衆議院議員 照屋寛徳)


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