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特集

雨宮処凛の“かりん”と直言

無差別殺人に思う

 秋葉原の事件の犯人が、日研総業からトヨタ系の工場に派遣される派遣労働者だと知ったとき、体中から力が抜ける気がした。

 以前、この連載で、日研総業について書いたことがある。日研総業からトヨタ車体に派遣されていた24歳の男性が、突然の「雇い止め」を食らい、会社の寮も追い出されて、そのままホームレスになってしまったという話だ。

 日研総業とは、そういうところである。そして製造業の派遣で働くとは、そういうことでもある。日研総業からキヤノンに派遣されていた私の友人は、長期の休みのたびに日研の社員が寮の部屋に合鍵を使って勝手に入ってくることを嘆いていた。「逃げてないかどうかチェックしてる」ということだった。

 全国の大企業の工場に派遣され、生産調整のあおりを受けて契約を打ち切られ、知らない土地で仕事と住む場所とを同時に失い、そのままホームレスになってしまった若者を私は数人知っている。

 犯人は「6月いっぱい」での契約終了を告げられていたという。「生活に疲れた」「リストラに悩んでいた」とも話しているそうだ。

 04年、規制緩和の大合唱の下、製造業への派遣が解禁された。小泉構造改革は「市場競争に勝ち残れない人間は自己責任で勝手に困窮してくれ」というメッセージを放ち、大企業は非正規を使い捨てにすることで「史上最高の利益」を連発してきた。

 いつの間にか格差社会の中で大多数の若者は「負け」になっていて、どんなにもがいてもはい上がれないようなシステムが出来上がっていた。

 格差社会は、具体的な貧困と同時に、底なしの絶望と虚無感も生み出した。どうせどれだけ頑張っても、非正規雇用である限り、昇格も昇給もボーナスもない。

 常に失業を前提とした不安定な働き方では近い近い将来のビジョンさえも描けない。その上、正社員と同じ仕事をしたって賃金は半分以下。そんなところで、誰が「希望」を持って「前向き」に、そして「精神的に健康に」生きていけるだろうか。

 もちろん、犯人の犯行は許されることではない。しかし、彼の絶望の闇の深さの前で、私は若者の未来を奪ってきた政治への怒りが抑えられないでいる。

 

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ガテン系連帯

秋葉原事件と派遣労働を考える視点について懇談会のご案内
 日時 6月18日(水)10:30〜12:00
 会場 衆議院 第2議員会館 第2会議室(名称「派遣労働を考える懇談会」)
 http://gatenkei2006.blog81.fc2.com/blog-entry-161.html

プロフィール

雨宮処凛(あまみや・かりん)

雨宮処凛1975年、北海道生まれ。ゴスロリ作家。元パンク歌手&元政治活動家。アトピーが原因で受けたイジメを発端に、不登校、家出、リストカット、自殺未遂などを繰り返す。その壮絶な半生を描いた『生き地獄天国(太田出版)は大きな反響を呼ぶ。最近は、若者の雇用問題などにも積極的に取り組んでいる。
【雨宮処凛公式ホームページ】http://www3.tokai.or.jp/amamiya/


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