HOME特集>雨宮処凛のかりんと直言

特集

雨宮処凛の“かりん”と直言

「頑張らないで」というメッセージ

 2月11日、若者の街・下北沢で「ジョブ・チョコレート」という企画が行なわれた。バレンタインにかけて、チョコレートを配りながら若者たちに労働についてのアンケートやクイズを行なうという企画だ。主催は、若者の仕事についての活動をしているNPO法人「POSSE」。NHKラジオの格差社会をテーマにした番組で彼らの取り組みを中継するというので、レポーターとともに私も現場から中継で報告させてもらった。

 まずは街頭クイズ。POSSE会員の若者たちが、道行くカップルなどにクイズに答えてもらう。クイズはこんな感じだ。「(1)時給1000円の人が8時間を超えて働いたら、その分の時給はいくらになる?」「(2)バイト中に皿を割ってしまった! 店長に謝っただけで済む?」「(3)『明日から来なくていいよ』と言われてしまいました。どこまですることができる?」「(4)アルバイトは有給をもらえる?」「(5)あなたの給料は何分単位で計算されなければならない?」  。

 答えは4択から選ぶ。さて、どこまで分かっただろうか。(1)の答えは「1250円以上」、(2)は「お金を払う必要はない」、(3)は「なぜ辞めなければいけないのか理由を説明させ」、「辞めるかわりに1ヵ月分の給料をもらって辞める」(組合に入って団体交渉という手ももちろんある)、(4)は「もらえる」、(5)は「1分単位」だ。街行く若者たちは次々とクイズに答えていくが、まず全問正解はいない。特に(3)と(4)の正解率は低く、バイトは有給をもらえなくて当たり前、その上お皿を割ったりしたら給料から差し引かれる、と思っている人が多い。しかし、こういったことを、雇われる側だけでなく、雇う側もあまり知らなかったりする。「勉強になった」と感心する若者たち。

 POSSEのメンバーは、クイズに答えてくれた人たちに「働いている“あの人”に一言メッセージ」と題して、メッセージをもらう。恋人や友達や家族へのメッセージだ。そこにあった言葉を見て、切なくなった。「無理しないでね」「頑張りすぎないで」「たまには早く帰ってきてね」「もう少し寝れるといいね」などなど。ひと昔前なら、「働く人へのメッセージ」を募集すると、大体「頑張ってね」という励まし系の言葉がメインだったのではないだろうか。しかし、私の見た限り、「頑張って」という言葉はひとつもなく、その代わりに「頑張りすぎないで」という言葉が目立った。休日の昼下がり、下北沢を楽しそうに歩くカラフルな若者たちの姿を見ながら、彼らもまた、明日から激務の日々が始まるのだと思うと、何だか風景が違って見えた。

(2008年2月20日 社会新報 「文化人コラム」より)

プロフィール

雨宮処凛(あまみや・かりん)

雨宮処凛1975年、北海道生まれ。ゴスロリ作家。元パンク歌手&元政治活動家。アトピーが原因で受けたイジメを発端に、不登校、家出、リストカット、自殺未遂などを繰り返す。その壮絶な半生を描いた『生き地獄天国(太田出版)は大きな反響を呼ぶ。最近は、若者の雇用問題などにも積極的に取り組んでいる。
【雨宮処凛公式ホームページ】http://www3.tokai.or.jp/amamiya/


HOME特集>雨宮処凛のかりんと直言