HOME特集>雨宮処凛のかりんと直言

特集

雨宮処凛の“かりん”と直言

優しいのは弱者、という転倒


【反貧困ネットワーク発足イベント ゲスト:福島みずほ、森永卓郎】

 昨年放送されたNHKスペシャル「ワーキングプア3」をご覧になった人は多いだろう。番組で紹介された30代のホームレスの男性のことを覚えているだろうか。路上生活をしているAさんは、仕事を見つけ、働きだす。インタビューに応えている最中、Aさんは突然、泣き出す。「今までは泣くこともできなかった」けれど、「やっと人を信じられるようになった」と言って涙を流す彼の姿は、私の胸に深く刻まれた。

 「ワーキングプア」といっても、それは経済的な「貧困」だけの話ではない。孤独、疎外感、そして踏みにじられる尊厳。彼の涙には、そんなさまざまな種類の絶望と、だけど「今は涙を流すことができる」というほんの少しの希望が混じっていたように見えたのだ。本当に厳しいとき、人は感情を封印させ、泣くことすらできない。そんな感覚を、私は久しぶりに思い出していた。

 数日前、そのAさんの近況について、「反貧困たすけあいネットワーク」のメールマガジンで知った。ちなみに「反貧困たすけあいネットワーク」とは、「誰も守らないなら、自分たちで守る!」というかけ声のもとにスタートした若者困窮者向けの互助会的ネットワーク。病気やけがで働けないときのため、1万円の無利子貸し付けや「休業たすけあい金」を備えている。

 で、Aさんの近況だが、番組放送後、視聴者から仕事の紹介や寄付金が集まったという。しかし、彼は受け取りを固辞。なんと「反貧困たすけあいネットワーク」に寄付してくれたというのだ。

  そのことを知って、今度は私が泣きそうになった。自分自身が苦しいのに、自分に集まったお金を反貧困ネットワークに寄付してくれるAさん。考えてみれば、いつもそうなのだ。助けてくれるのはお金持ちではなく、自分自身も厳しくて、そんなにお金持ちではない人たち。実際、「反貧困ネットワーク」に寄付を寄せてくれる人には、年金生活をしている方など、決して裕福とは言えない人たちが多いという。

 そんなことを考えるたびに、思う。この世の中は完全に分断されていて、お金持ちには苦しい人たちの姿そのものが見えないのではないだろうか、と。貧しい若者からピンハネしてボロもうけしている金持ちもいれば、自分だって苦しいのにお金を差し出す人もいる。「私たちにとって、とても重たいお金になりました」。メールマガジンには最後にそう書いてあった。

(2008年2月6日 社会新報 「文化人コラム」より)

プロフィール

雨宮処凛(あまみや・かりん)

雨宮処凛1975年、北海道生まれ。ゴスロリ作家。元パンク歌手&元政治活動家。アトピーが原因で受けたイジメを発端に、不登校、家出、リストカット、自殺未遂などを繰り返す。その壮絶な半生を描いた『生き地獄天国(太田出版)は大きな反響を呼ぶ。最近は、若者の雇用問題などにも積極的に取り組んでいる。
【雨宮処凛公式ホームページ】http://www3.tokai.or.jp/amamiya/


HOME特集>雨宮処凛のかりんと直言