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特集

雨宮処凛の“かりん”と直言

遭難フリーター

 今年の山形国際ドキュメンタリー映画祭は、面白そうな作品がめじろ押しだ。

 私が気になったのは、日本人の若い監督が撮ったクルド人のドキュメンタリー。そしてドイツ人が撮った、大阪の野宿者排除にまつわるドキュメンタリー。山形映画祭にはたった1日だけ行ったのだが、どちらも見ることができなかった。

 映画祭に行った理由は、私が「アドバイザー」を務めるドキュメンタリー作品「遭難フリーター」(プロデューサー・土屋豊)が上映されたから。監督は、もはや偽装請負の代名詞となった「キヤノン」の工場で派遣で働く24歳のフリーター・岩淵弘樹。派遣労働の日々を、自らが主人公となって1本の作品にしたのだ。

 この作品には、現在の「フリーター問題」を語る上で欠かせないすべての要素が詰まっている。アパートも自転車も洗濯機も冷蔵庫もこたつもカーテンも、何もかもが「派遣会社の借り物」の生活。派遣社員はキヤノンの工場でゴミ箱を使うことも許されていない。給料はいろいろ引かれて12万円。そこに奨学金の返済、借金の返済がのしかかる。仕事は「プリンターのインクにフタをつける」だけ。「頭のいいオランウータンでもできる仕事」と彼は言う。そうして同じ工場で派遣で働く人々へのインタビューが圧巻だ。大マスコミの人間がいくら取材しても、「同じ立場」の彼のような言葉はまず引き出せないだろう。

 「派遣社員なのに結婚している」ことをひた隠しにする同僚。その同僚にはもうすぐ子どもが生まれるが、自分の派遣の暮らしを「普通じゃない」「言えない」とつぶやく。30代の派遣の人々と居酒屋で飲んでも口をついて出てくるのは愚痴ばかり。「14〜15万もらっても何もできない…」「給料が上がってくんだったらやりがいもあるけど…」。彼らが派遣である限り、給料は絶望的に上がらない。生涯にわたって。30代で製造業で派遣をしていた人を、正社員として雇ってくれる会社はあまりにも少ない。そうして理容師をやめて工場に来た若者。彼の親も理容師だが、それだけでは食べていけず、夜に清掃のバイトをしている。そんな状況に不安を感じて工場に来たものの、給料の安さにがくぜんとする若者は「正社員になりたい、ボーナスがほしい」と肩を落とす。

 就職氷河期に就業年齢を迎えた若者たちは、生きることそのものに「遭難」している。少し前まで可能だった「学校を出たら正社員として就職する」という道が2人に1人しか獲得できなくなった今(24歳以下の非正規雇用率は50%近く)、漂いながら消耗し続けた彼らは、ついに「遭難」し始めたのだ。映画の公開などは、まだ未定である。

(2007年10月17日 社会新報 「文化人コラム」より)

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マガジン9条「雨宮処凛がゆく!」第10回遭難フリーター、の巻

プロフィール

雨宮処凛(あまみや・かりん)

雨宮処凛1975年、北海道生まれ。ゴスロリ作家。元パンク歌手&元政治活動家。アトピーが原因で受けたイジメを発端に、不登校、家出、リストカット、自殺未遂などを繰り返す。その壮絶な半生を描いた『生き地獄天国(太田出版)は大きな反響を呼ぶ。最近は、若者の雇用問題などにも積極的に取り組んでいる。
【雨宮処凛公式ホームページ】http://www3.tokai.or.jp/amamiya/


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