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特集

雨宮処凛の“かりん”と直言

選挙難民

 参院選前に、一部の報道で話題になったことがある。それは「ネットカフェ難民」が「選挙難民」化しているという実態だ。地元に住民票があるため、わざわざ投票のために帰るお金などないので選挙に行けないということである。

 実はネットカフェ難民以外にも、「選挙難民」と言うべき人は多い。それは製造業の現場を転々とせざるを得ない派遣、請負の人たちだ。現在、製造業で働く派遣、請負の若者は100万人ともいわれている。

 彼らの多くは地元を離れ、見知らぬ土地で寮生活をしている。住民票など滅多に移さない。なぜなら、短期雇用でいつ「契約終了」となってしまうのか分からないからだ。いちいち住民票を移していたら面倒でしょうがない。稼ぎにきているので、わざわざ投票のために地元に帰る経済的、時間的余裕のある人も少ないだろう。

 それ以外にも、選挙難民と言うべき人たちがいる。最近、ゲストハウスの取材をしたのだが、取材した5人の若者は、皆住民票が地元にあった。よって、参院選にほとんどが行っていなかった。理由は「わざわざ帰るお金がない」から。1人だけ地元に帰って投票したという人は、ゲストハウス住民には珍しい正社員だった。月収は30万円程度。ほかの人々はフリーターで月収は10万円台。つまり、月収が30万円程度あり、その上地元が比較的近いという条件であれば投票行動をする余裕が生まれるということだろう。ちなみにゲストハウスとは一軒家や会社の寮だった建物で、複数の人々が共同生活をしている物件。若者に人気があり、最近、都内ではゲストハウスが激増しているという。一番の魅力は家賃の安さだ。ドミトリータイプで3万円ほど。

 それにしても、特定の世代の特定の年収の人々――ものすごく大ざっぱに言えば20代、30代の年収300万円以下の層が、「選挙権を行使できない」という事態は由々しきことである。その上、製造業を転々とする人々に関しては、派遣法の改正によって「選挙難民」がつくり出されたという見方もできる。これはうがった、「陰謀論」のような見方だろうか? しかし、若く、決して豊かとは言えない層が投票すらできないことはもっと問題にされていいと思うのだ。特定の世代の特定の層に対してどれほど不利な政策が打ち出されようとも、異議申し立ての手段がないなんて、しかもそれが「剥奪(はくだつ)」されたものだなんて、とてもじゃないが21世紀の話ではない。貧乏人は投票できないって、ものすごーく昔の話だったよね?

(2007年9月19日 社会新報 「文化人コラム」より)

プロフィール

雨宮処凛(あまみや・かりん)

雨宮処凛1975年、北海道生まれ。ゴスロリ作家。元パンク歌手&元政治活動家。アトピーが原因で受けたイジメを発端に、不登校、家出、リストカット、自殺未遂などを繰り返す。その壮絶な半生を描いた『生き地獄天国(太田出版)は大きな反響を呼ぶ。最近は、若者の雇用問題などにも積極的に取り組んでいる。
【雨宮処凛公式ホームページ】http://www3.tokai.or.jp/amamiya/


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