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特集

雨宮処凛の“かりん”と直言

見えない戦場

 「世界陸上」が盛り上がる大阪で、信じられない事件が起きた。会場の長居公園の野宿者排除に反対して活動していた男性が逮捕されたのだ。しかも逮捕理由は「道路運送車両法違反」。半年以上前にディーゼル車を運転した、とかいうワケの分からない理由。この法律が適用されて逮捕者が出たのは日本でも初めてだという。警察は彼のバイト先まで家宅捜索した。

 理由は言うまでもなく、彼が野宿者支援の活動をしていたからだろう。彼らは翌日に控えた世界陸上の開会式で、野宿者を排除して行なわれる世界陸上に対し、抗議行動を予定していた。これが予防拘禁でないのなら、一体何が予防拘禁なのか。

 今この国では、声を上げ、行動しなければ生きられない。しかし、声を上げた途端にめちゃくちゃな暴力によって封じ込められてしまいかねない。

 昨年も、目の前でそんな光景を見た。フリーターたちが「生きさせろ!」「マトモに暮らせる賃金と保障をよこせ!」と行なったデモ。その名も「自由と生存のメーデー06  プレカリアートの企(たくら)みのために」。ただ若者たちが「生存」を求めただけなのに、目の前で3人が逮捕された。もちろん許可を取って行なわれたデモの上、デモ隊は何もしていない。機動隊によって連れ去られるデモ参加者を見ながら、今のこの国では生存を求めるだけで逮捕されてしまうのだと心底ゾッとした。

 その背景に見えるのは、
「フリーターなんかが物を言うことは絶対に許さない」
「文句を言うんだったら容赦なくブチ込むぞ」
「フリーターなんて黙って使い捨てられていればいい」
という人を人とも思わない思想だ。

 私の知人は、戦争中のイラクで、連日イラク人のデモを見た。彼らの訴えは「メシをよこせ」「仕事をよこせ」「住む所をよこせ」という最低限の生存にかかわるものだったという。イラクでは最悪そんな要求をしただけで米軍に射殺されかねない。しかし、平和といわれる日本だって、最低限の要求をしただけで逮捕されてしまう。

 私たちは、見えない戦場に生きている。そして恐ろしいのは、誰もこの「戦争」の目的も、行きつく先も知らないことだ。無意識に生きていたら、私たちはたぶん、ゆっくりと「麻痺(まひ)」させられていってしまう。

(2007年9月12日 社会新報 「文化人コラム」より)

プロフィール

雨宮処凛(あまみや・かりん)

雨宮処凛1975年、北海道生まれ。ゴスロリ作家。元パンク歌手&元政治活動家。アトピーが原因で受けたイジメを発端に、不登校、家出、リストカット、自殺未遂などを繰り返す。その壮絶な半生を描いた『生き地獄天国(太田出版)は大きな反響を呼ぶ。最近は、若者の雇用問題などにも積極的に取り組んでいる。
【雨宮処凛公式ホームページ】http://www3.tokai.or.jp/amamiya/


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