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浜矩子の世の中に“喝”

浜矩子の世の中に“喝”

第1回 サミットは格差体験型で

 洞爺湖サミットの顛末(てんまつ)を見ながら、ふと考えたことが1つある。それは、なぜ、サミットはいつも風光明美でリゾート風な所で開くのだろう、ということだ。

 分からないこともない。どこの国だって、遠来の政治首脳たちを迎えるに当たっては、大いにいいところを見せたいだろう。麗しくて設備の行き届いた環境の中で、ゆったりと快適に、雑念なく議論に集中してもらいたい。そういう配慮もあるだろう。おもてなしの心配りに、ケチをつける筋合いはない。

 ただ、それがすべてでもないだろう。いやしくも、「主要国」と名の付く国々の政治リーダーが一堂に会する集まりだ。慰安旅行とはわけが違う。確かに、洞爺湖は環境問題を考えるにはふさわしい開催地かもしれない。だが、同じ北海道にもグローバル競争がもたらす痛みをヒシヒシと感じさせられている地域が多々あるはずだ。50年先の環境問題も重要だが、人々が今当面している不安や貧困に目を向けずして、実感をもって50年後を語れるものだろうか。

 その意味で、せめて1日だけでも、今回のサミットをもっと暗くて落ち込んでいる所でやればよかったと思う。例えば、人口流出に悩んでいる地方都市に出向いて、設備は立派なのに、誰も使わなくなってしまった公民館を会場にするのはどうか。日本の津々浦々には、そんな施設を持て余している町々が少なくない。

 最近、面白い話を聞いた。スペインのサパテロ首相が経済政策に関する記者会見に臨んだときのことだ。記者席からの質問の多くが、格差問題や貧困問題に集中した。そうした質問の流れの中で、1人の記者がこう聞いた。「首相、あなたは今、コーヒー1杯が世の中でいくらしているかご存じですか?」。かなりためらった後、サパテロ首相は「50セントくらいかな?」と答えた。50セントといえば、1ユーロの半分だ。日本円にすれば今の相場でおよそ86円である。このインフレのご時世に、何を世間知らずのことを言っているのか。そんな調子でどうして経済政策が語れるのか。記者たちは一同絶句して質問を続ける気がなくなった。

 これはサパテロ首相ばかりの問題ではないだろう。福田首相はどうか? ブッシュ大統領はどうだろう。格差と貧困が世界の問題と化した今、政治家たちは生活感覚からの遊離に厳重注意が必要だ。サパテロ流の失態を演じないためにも、格差体験型のサミット開催を考えてはどうかと思う。

(2008年7月16日 社会新報 「文化人コラム」より)

プロフィール

浜矩子(はま・のりこ)

浜矩子エコノミスト。一橋大学経済学部卒業。1975年、三菱総合研究所入社。2002年から同志社大学大学院教授。専門は国際経済のマクロ分析。メディアでの辛口コメントに定評。

著書に、『経済は地球をまわる』(筑摩書房、2001年)、『あらすじで読む日本経済』(PHP研究所、2005年、共著)他。


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