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障害者殺傷事件 首相は「人権」の価値観を語るべき

 7月26日に神奈川県相模原市の障害者施設で19人が殺害された事件は、いかに語っても何か欠けているような気分が抜けないという重苦しさを残している。

 中でも違和感が消えないのは安倍政権の反応(というか無反応)ぶりだ。加藤1億総活躍相が「加害者が障害者の存在を否定するような発言をしたことは許せない」と述べたのは8月29日になってからのこと。安倍首相は事件2日後の関係閣僚会議で言及したというが、中身は一般論止まり。米国家安全保障会議報道官が直後に「凶悪犯罪が障害者施設で起きたという事実」に明確に言及する声明を出し、各国首脳らからも反応が続いたことと比べると、事実認識と評価を避けたかのような首相の反応ぶりは、ある意味際立っている。

 なぜこのことを指摘するかというと、容疑者が2月に衆院議長宛てに持参した手紙には、「世界経済の活性化、本格的な第3次世界大戦を未然に防ぐことができるかもしれない」ことを理由とした障害者殺害計画について「安倍晋三様のお耳に伝えて頂ければ」など、首相の名前が2回も登場するという特異な経過があるからだ。容疑者は「心身喪失による無罪」と金銭的支援などの確約を求めている。つまり、ほめられると思っていたのだ。「世界に8億人の障害者がいて、その人たちに金が使われている。それを他に充てるべき」と語ったという容疑者に名指しされた首相は、その考え方は間違っていると、自ら語るべきではないのか。

 「人権」の語り方に一定の政治性はぬぐえないとしても、およそ人権という価値観にコミットする態度表明を避けるという点で日本の保守政権は特徴的だ。しかも、公人の差別発言に寛容なことも公然の秘密だ。

 事件を受け厚労省は検討チームを設けた。精神保健福祉法に基づく措置入院解除後のフォローを転居後も含めて行なう体制づくりが課題とされるが、継続的監視とどこで一線を引くのかが問題だ。現在、知事などが自傷他害のおそれありなどと判断すれば強制入院させられる措置入院に加え、重大他害行為を犯した精神障害者を裁判官などの判断で国指定医療機関に強制入院させられる医療観察法がある(名前は医療でも監視下に置かれる事実上の保安処分)。これらの制度の運用はどうなるのか。精神医療の「脱施設化」に批判的な精神科病院協会会長は首相の後援者として知られており、懸念材料は多い。

(社会新報2016年9月14日号・主張より)


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