2011年7月6日
社民党・沖縄振興検討委員会
委員長 福島 みずほ

「新たな沖縄振興」に関する提言
‐ 社民党の基本的な考え方 -

はじめに

 2012年3月で沖縄振興計画が期間満了を迎える。いま沖縄では今後10年、20年先のあるべき将来を見据えて、新たな沖縄振興に関する多くの議論が繰り広げられている。

 復帰以来、4次にわたって国の計画のもと進められた諸施策は、沖縄戦と米軍占領で圧倒的に立ち遅れた社会資本整備を加速させた。だが、併せて米軍基地の維持を目的とした公共事業偏重の「振興策」が露骨に展開されたために地域経済発展の自立性を阻み、いびつな財政構造をもたらした。結果として、基地の返還は遅々として進まず、基地あるが故に今なお沖縄の振興は阻害されている。

 国には、県民主体の新たな沖縄振興計画を支援する責務がある。高失業率、低所得など依然として縮まらない本土との格差是正、島しょ県としての地理的不利性の克服、過重な米軍基地負担の解消と速やかな返還、返還軍用地の跡利用、戦後補償、取り残された児童福祉の問題等沖縄が抱える諸課題に対応し、沖縄がもつ優位性を延ばすための法制度を国の責任において確立せねばならない。

 社民党は、沖縄が全国の自治先行モデル、ひいては牽引役となるような柔軟かつ大胆な施策展開ができるよう、新たな取り組みを求めるものである。

T.「沖縄振興策」についての現状認識

基地維持のための振興策

 恒常的な基地維持のための振興策として、「防衛施設周辺の生活環境に関する法律」に基づく基地周辺整備事業がある。普天間飛行場の移設が政治問題化した1996年以降は、「基地と振興策のリンク」がより露骨になり、島田懇談会事業(沖縄米軍基地所在市町村活性化事業)、北部振興策事業、SACO関連事業など時限的な振興策が次々と打ち出され、予算措置された。

 これら「10年1,000億円」という総枠・総額ありきや「9割補助」(後年度の交付税措置を含めれば実質10割補助)の振興事業は、自治体から創意工夫と財政の自律性を奪っていった。ハコモノ事業で建設業者は一時的に活気づき、幾分かの雇用は生まれたかもしれないが、内発的な地域振興、経済発展を可能とする持続性のある産業が根付くには至らなかった。

 そればかりか、制度創設にあたって基地問題をカネで解決しようとする政府の意図が全面に押し出されたため、むしろ「駆け引き」「交渉」の名を借りた陳情政治の温床となっている。

自立・発展を阻害する米軍基地

 米軍基地は自治の阻害要因である。米軍基地から直接あるいは間接的に派生する問題が政治、経済、環境などあらゆる面で沖縄社会の健全な発展を阻害している。決して基地受け入れと地域振興を結びつけて考えるようなことがあってはならない。

 沖縄県が2010年3月に策定した沖縄21世紀ビジョンにおいても「基地のない平和で豊かな沖縄」が「あるべき県土の姿」として明記された。米軍基地が返還されれば、跡地の開発整備で大きな経済効果や雇用が生まれ、県民主体の持続的な経済振興と自立的発展につなげることができる。そのための最大の資本は人材と土地である。「沖縄の土地は、沖縄の発展のために有効活用すべき」との前提に立って、あるべき沖縄振興の姿を描いていく必要がある。

実態に沿わない骨抜き制度

 沖縄振興事業費のあり方を振り返るにあたり、その予算配分が40年間ほとんど変わらなかったことも見逃してはならない。

 現行の沖縄振興体制では、内閣府沖縄担当部局に各省庁の業務が統括され、関連予算も一括計上される。それ自体の狙いは本来、中央集権体制による縦割り行政を否定し、省庁間の横断を可能にする予算措置を講じることにあった。ところが、各省庁における事業メニューの枠(シェア)は、沖縄でもそのまま適用された。しかも、その9割が公共事業に費やされた結果、実際の政策需要との間でズレを生み、公共事業依存の経済構造と自然破壊をもたらした。

 また、沖縄振興の柱の一つとして、金融特区や自由貿易地域など「経済特区」制度が導入されたが、機能していない。企業が新規参入しようにも認定要件のハードルが高すぎるのである。法人税減免などの優遇措置を受けるには、「特区内にのみ事業所を有する」「常時雇用20人以上」など制約が多く、制度自体が骨抜きになっている。特区制度を経済振興に反映させるには、大胆な規制緩和と税制優遇措置が不可欠である。

なお果たされていない国の責務

 そもそも、国が決定権をもつ沖縄振興計画は、内閣府による予算の一括計上方式、全国最高の高率補助制度を敷き、「沖縄振興策」としてあたかも特段の配慮が行われているように印象づけられている。

 しかし、実態に目を向けると、復帰後、この間に計上された内閣府沖縄担当部局沖縄振興事業費(1972―2011)は10兆1599億円、省庁直轄分と沖縄防衛局関係を含めても16兆2238億円にとどまる。これは同期間の国家予算総額の0.6%に過ぎない。また、2008年度決算における国からの財政移転は1位県の7割程度、県民総所得に占める1人あたりの公的支出額は全国9位である。他府県と比較をみても、「特段の配慮」と呼べるような通常以上の政府投資がなされているとは言い難い。

 沖縄は、去る地上戦で筆舌に尽くしがたい甚大な被害を受け、その後27年間米軍統治下に置かれた。日本本土の復興期、経済成長期に「均衡ある発展」「ナショナルミニマム」の適用除外地であったことを踏まえれば、むしろ日本政府が沖縄に対する責任を十分に果たしてきたのか疑問である。県民主体の沖縄振興を後押しする責任が国にはある。

 沖縄県が求めている「一括交付金」制度の導入にあたっては、「高率補助」に頼らない経済・財政構造の確立を目標とすべきだ。将来的な分権型社会の到来を見据え、事業に優先度を付けるなど弾力性をもった予算措置を可能とする財政システムを構築していく必要がある。国の責任において解決すべき問題と、沖縄が主体的に取り組むべき課題の整理も求められる。

 新たな沖縄振興は、これまでの課題と反省の上に立ち、根本的にそのあり方を見直すことから始めねばならない。そうでなければ、国も沖縄県も同じ過ちを繰り返す。

U.社民党の考えるめざすべき方向性

 地域を育てるのは人であり、また、人を育てるのは地域である。産業振興によって雇用を伸ばし、所得を向上していくことと、経済的困難によって立ち遅れた教育・福祉分野の課題を克服していくことは、新たな沖縄振興にとって欠かせない両側面である。

置き去りにされた児童福祉への取り組み

 沖縄に残る「格差」は児童福祉分野に大きい。「こどもの貧困」は、本土ではリーマン・ショック以降に言われ始めたが、沖縄ではむしろ“貧困の世代間連鎖”が起きている。

 沖縄は、国内唯一の地上戦で被った壊滅的打撃によって経済発展が立ち遅れ、戦後の米軍統治下にあっては児童福祉法等の法的保護も受けられなかった。

 特に、子育て政策においてはなお行政の手があまりにも行き届いていない。保育所待機児童率は常に全国1位、夜間保育や学童保育にも公的資源が全然足りていないばかりか、まったく配置されていない地域もある。少年非行1位、離婚率(ひとり親)1位、DV相談1位、児童虐待高水準・高止まり、学力テスト最下位、進学率最下位など、恒常的な全国最下位所得や高失業等を背景に起きている次世代への影響を社会構造的な問題として捉え、検証・是正する必要がある。

第一次産業の育成、再生可能エネルギー産業の開拓で雇用創出

 公共事業の落ち込みによる県経済への影響は甚大であり、県民生活に深刻な影を落としている。建設業の大幅減など産業構造の転換に見合う新たな雇用の創出は、まさに緊急課題である。

 他方、沖縄県の第一次産業は、沖縄振興事業によって復帰から今日まで莫大な予算が投じられたにもかかわらず、衰退に歯止めがかかっていない。大規模な耕作放棄地の活用もあわせ、抜本的な生産構造の転換が求められる。生産、加工、流通、研究分野を連携させて一つの産業として捉え、雇用創出と市場拡大につなげていく必要がある。

 具体的には、亜熱帯特有の地域性を活かした農・水産業、特に果樹、花卉園芸、薬草栽培等や浅海域を生かした栽培漁業、海洋深層水の活用等に力点を置き、第一次産業の振興を沖縄振興の柱に据える。そのためにも、研究・開発分野への人的、資金的投入、農林・水産専門高校など人材育成機関との連携は欠かせない。

 また、わが国のエネルギー政策を再生可能エネルギー中心に転じていく上で、太陽光やバイオマス、洋上を含む風力発電も新産業として一層強化すべき分野だろう。沖縄の豊かな自然環境は魅力的な資源である。島しょにおける水資源確保の観点から海水の淡水化、地下ダムなどのさらなる技術開発も求められている。

付加価値向上、物流の促進で「おきなわブランド」を確立

 商品の付加価値を高め、市場へ流通させるシステムの確立も急がれる。マーケティング支援、流通コスト支援、品質保証システムの構築等により本土、アジアそれぞれの市場に耐え得る県産品、加工品に育てあげねばならない。メイドインジャパン(安心、高品質)とメイドインオキナワ(健康、長寿)を組み合わせた「おきなわブランド」の地位向上を図る。ANA物流貨物の展開により優位となったアジアへの輸出に力を入れ、販路を拡大することも必要だ。

 なお、離島振興の観点から、地域の生命線ともいうべき民間航空や船会社の定期便存続による「交通権」の保障も強く求めたい。ヒトとモノの移動コストの軽減によって、過疎地域における定住条件は向上する。物流の促進は地域経済の下支えとなる。

V.制度提言 −社民党の考える重要施策−

1. 新たな沖縄振興法、基地跡地利用法の制定

@)国の沖縄振興に対する責務を明確に規定する「新たな沖縄振興法」制定

 県および市町村の権限の強化(一国二制度的自治権の拡大)、国の財政措置(一括交付金)等を新法に条文化し、県民主体の沖縄振興計画に描かれる施策実現に向けた法的裏付けとする。

 とりわけ、立法化にあたっては「国の戦争責任に時効はない」との考えに立脚する必要がある。現行の振興計画における「戦後処理」政策は、不発弾対策と旧軍飛行場問題にとどまっているため、上記2事業に加えて遺骨収集、学齢期の義務教育未修了者の支援、所有者不明土地対策にかかる経費についても全額国庫負担で実施する旨、明記する。

 なお、基本計画(新たな振興計画)では、遺骨収集事業の実施主体を当該自治体(県・市町村)とする。また、全国で唯一沖縄にだけ存在しない公立夜間中学校を国の責任において設置することを盛り込む。

A)現行の軍転法および沖振法第7章に代わる新たな「基地跡地利用法」制定

 沖縄(特に本島中南部)における土地利用は、膨大な面積を有する米軍基地の存在によって著しく制限されている。そのため、返還軍用地の有効な利活用は県土再編、沖縄振興を図るうえで重要なかぎとなる。一方で、返還軍用地の環境浄化、給付金の支給など地権者に対する支援、公共用地の先行取得や基地従業員の雇用対策等、抱える課題も多い。

 立法化にあたっては、基地接収の過程と27年間に及ぶ米軍統治、いまなお改定されない日米地位協定に係る問題等を考慮し、跡地利用に対する国の責務を明記することが不可欠である。そのうえで、必要な制度設計と財政措置を講じる必要がある。

2.一括交付金制度を導入し、財源を確保する

 「一括交付金」制度を創設し、新たな沖縄振興計画を実現するために必要な財源を確保する。使途については、沖縄のもつ特殊性に配慮したうえで、沖縄県及び市町村の裁量を保障する。県民主体で柔軟性のある事業が展開できるものとする。

 他方、沖縄側には、補助金・交付金の適正使用の観点から国民や国会に対する説明責任が求められる。沖縄県は、基本計画(新たな振興計画)のもとで優先順位を付けた事業選択、事業計画の進捗状況や効率性をチェックするために有効な評価システムを構築する必要がある。

3.国の出先機関を見直し、必要な予算と権限、組織を県に移管する

 県民主体の沖縄振興を担う体制の一元化に向け、沖縄総合事務局の組織構成を見直し、必要な権限、財源を県に移管する。

 また、これを機に、国直轄の公共事業が本土業者に環流しないよう抜本的な改善措置を講ずる必要がある。

4.沖縄開発金融公庫は存続させること

 沖縄開発金融公庫が有する独自の出資・融資制度を存続、拡充させる。

 資金力の乏しい沖縄県において、沖縄振興を金融面から支える総合政策金融機関として沖縄公庫が果たす役割は大きい。政策の実施機関とそれを資金面で支える金融機関の関係を「車の両輪」と位置付け、沖縄の地域的課題に対応する。

5.現行の特区制度を見直すこと

 自由貿易地域、金融特区などの優遇措置が機能していない。総合特区制度と差別化を図ったうえで、企業誘致のインセンティブになり得る沖縄独自の税制優遇措置(法人税の免除等)が必要である。

6.「沖縄こども特区」(仮称)の創設

 全国先行型のモデル地域として県全域を「沖縄こども特区」(仮称)に指定する。総合的な子育て支援策をすすめ、出生率全国1位を支える地域づくりをめざす。

 「待機児童の解消」は、待ったなしの緊急課題である。市町村への財政支援を強化し、保育所、放課後児童クラブの整備に集中的に取り組む。待機児童の受け皿となっている認可外保育施設の支援についても特段の財政措置を講じ、小規模保育の実施を可能とするなど沖縄の実態にあった保育制度を構築する必要がある。

 併せて深刻な「子どもの貧困問題」に対処するため、沖縄の特色である小学校併設の幼稚園(いわゆる学校幼稚園)を単位にして地域自治会、児童・民生委員、福祉・保健・医療など関係機関とのネットワークを強化し、学齢期前の早期支援体制を構築する。そのために必要な事業として、公立幼稚園における給食・午後の保育の完全実施、教諭・保育師・スクールソーシャルワーカーの配置、ひとり親や経済困窮家庭、気になる子(発達障害児等)の支援強化を基本計画(新たな振興計画)に盛り込む。

7.「おきなわブランド付加価値向上プロジェクト」(仮称)を立ち上げる

 新たな産業を興すには、第一次産業従事者と加工、流通、観光業者との連携により、沖縄県産農水畜産物の高付加価値化が求められる。新商品の開発・販路拡大に取り組むため「おきなわブランド付加価値向上プロジェクト」(仮称)を立ち上げ、6次産業化を推進する。 

 加工工場や物流拠点の整備、新品種・新エネルギー等の新技術開発促進、海外展開を含む市場開拓や国際認証の取得、輸送コスト低減など離島県としての不利性解消のため、必要な制度整備、支援を行う。プロジェクト事業の実施にあたっては、生産、商品開発、観光業とのタイアップ等のマーケティング、販売までの一連の流れに関与し、指導できる人材(コーディネーター)育成が不可欠である。助成金や融資制度など適切な財政支援も講じる必要がある。

8.「交通権」を保障するための航路・航空路の維持改善制度の整備

 沖縄県は、東西約1000キロ・南北約400キロにも及ぶ広大な海域に分布しているという特殊性を持つ。単に離島を多く抱えている(県土面積の44・7%)にとどまらず、県全体が他の都道府県から離れた場所に位置する。沖縄県民の交通権を保障するためには、全国一律の離島振興施策の水準にとどまらない、地理的特殊性を踏まえた制度の整備が求められる。

 構造的に採算性の低い沖縄の離島航路・航空路については、諸外国の制度(米国の不可欠路線運行サービス、欧州の公共サービス業務)を参考に、生活路線の経常損失の全額の補填と一定の利益を保証する補助制度を整備する。また、住民の運賃引き下げ原資とすることを条件に、離島航空路に係る航空機燃料税や空港の着陸料・航行援助施設利用料を免除する。同様の考えをモノの移動についても適用し、物流コストを低減させるための補助制度を設け、沖縄の遠隔性による不利を改善する。

9.本島縦貫の軌道系交通網(鉄軌道)を導入

 沖縄県民は、悲惨な沖縄戦で軽便鉄道を失った辛い過去をもつ。それ故、県民にとって、鉄道やLRT(次世代型路面電車)など鉄軌道の敷設は悲願だ。また、地球温暖化・少子高齢化の社会にあって、環境にやさしい移動手段の確保、子どもやお年寄りなど交通弱者の「交通権」確保は時代の要請でもある。

 沖縄本島を縦貫し、定時・定速でのヒトとモノの移動を可能にする軌道交通システムの確立は、マイカー移動に頼りがちな県民のライフスタイルを大きく転換させるとともに、慢性的渋滞の解消にも繋がる。観光客の誘致政策にも反映させられる。

 導入にあたっては、採算性の確保はもちろん、バスやタクシーなど既存の交通網との結節に留意し、相乗作用が得られるよう事業計画を策定する必要がある。

10.「国立やんばる自然公園」(仮称)を創設

 北部圏域西海岸地域(東シナ海)は沖縄を代表する観光リゾート地域となっている。他方、東海岸(太平洋側)地域には亜熱帯の豊かな自然海岸が存在する。
 また、北部一帯の「やんばるの森」は沖縄本島の貴重な水源地となっており、IUCN(国際自然保護連合)世界自然保護会議が、日本政府に自然遺産への指定検討を勧告するなど、亜熱帯特有の豊かな自然を有する。ノグチゲラ、ヤンバルクイナ、リュウキュウヤマガメなどの希少動物が生息し、オキナワセッコク、コケタンポポなど、この地にしか生息しない植物の宝庫でもある。

 ジュゴンの生息する美しい海域を保全し、北部圏域一帯の生物多様性を保持する観点から、「国立やんばる自然公園」(仮称)を創設し、魅力ある観光資源づくりを推進する。

11.「沖縄国際平和研究所」(仮称)の創設

 沖縄戦最後の激戦地である糸満市摩文仁の「平和の礎」や「平和祈念資料館」をはじめ、県内には各種慰霊施設、戦跡など多くの施設がある。これらはすべて、県民の恒久平和を願うためのものである。

 沖縄戦での教訓は「軍隊は住民を守らない」ということであった。この教訓を普遍化し、次世代に継承する必要がある。“平和”の本質を追究し、「世界平和」構築のための発信拠点とすべく「沖縄国際平和研究所(仮称)」を創設する。

以上



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