2010年8月27日

内閣総理大臣
菅 直人 様

児童虐待防止に関する緊急申し入れ

社会民主党
党首 福島みずほ

 子どもの虐待事件が連日報道されている。先月厚生労働省が発表した「児童虐待相談対応件数等及び児童虐待等要保護事例の検証結果(第6次報告概要)」によると、全国205カ所の児童相談所が09年度に児童虐待として対応したケースは4万4210件と、前年より1546件増え、過去最高を更新した。しかし市町村に寄せられた相談件数(08年度5万3020件、09年度未確定)を合わせれば、優に10万件を越えると思われる。

 児童虐待をめぐっては、社会的な関心の高まりを受けて2000年に児童虐待防止法が成立し、今日まで児童福祉法とともに二度の改正を経て、虐待の定義の明確化、児童相談所の立ち入り権限強化や保護児童に対する親の面会権の制限など、徐々に虐待防止に向けた法整備が進められてきた。しかし、相変わらず悲惨な事件があとを絶たず、児童虐待は増え続けている。

 内閣府は本年7月23日に「子ども・若者ビジョン」(子ども・若者育成支援推進法第8条第1項の規定に基づく若者育成支援推進大綱)を発表した。従来の大綱に代わり、子ども・若者を、育成の対象から社会を構成する重要な主体として位置づけ、児童虐待の発生予防のために、地域における子育て支援の充実が明記された。児童の権利利益を養護する観点から、親権制限の検討についても言及している。

 児童虐待防止は、国家を挙げて推進すべき喫緊の課題であり、内閣府が子育て支援の一環として位置づけたことは評価に値する。今後、省庁間の相互連携体制の構築はますます重要となるであろうことを踏まえ、社会民主党として以下の通り、申し入れるものである。

「児童虐待防止対策本部」を設置すること。

 未来を担う子どもたちへの虐待防止対策は、子どもの権利条約の理念にもとづき、国家の最重要課題として位置づける必要がある。しかしながら課題は各省庁に亘っており、対応は容易ではない。

児童虐待防止対策を政府として包括的に所管し、省庁横断的に実行する拠点として、総理大臣を本部長とする「児童虐待防止対策本部」を、速やかに設置すること。

以上

[→児童虐待防止に関する緊急申し入れ](PDFファイルが別ウィンドウで開きます)

児童虐待防止に関する社民党の提言

◇国民への周知徹底

1.通報・通告に対する国民の意識改革キャンペーンを実施すること。(内閣府・文部科学省・厚生労働省)

 報復の恐れ等から深刻な事例ほど通報や通告を控える傾向がある。通告を「悪の告発」ではなく、「親と子の救出」と位置づけ、よりよい社会づくりのための参加と捉えるよう、国民の意識改革が必要である。政府公報などでのキャンペーンを実施すること。

 また学校(幼稚園・保育園も含め)は、日中のこどもの生活の場であると同時に、虐待を発見しやすい立場である。このことをふまえ、虐待が疑われる時には、組織ではなく一人の「こども関係従事者」として積極的に通告を行うことができる仕組みや、意識作りが必要である。

2.虐待する側からの「相談」を促す啓発活動の展開について(内閣府)

 虐待する当事者からのSOSを事前にキャッチし、相談体制を充実させるなど、虐待を未然に防ぎ、当事者を支援するシステム作りが求められている。虐待する側からの「相談」を促す啓発活動を展開すること。

◇困難を有する子ども、家族の支援

1.予期せぬ妊娠に対する相談体制を強化すること。(厚生労働省・文部科学省)

  ヨーロッパでは就学前から性教育を行う国があり、それらの国では低年齢での妊娠や性病、性犯罪の発生率が低いというデータがある。とりわけ10代での予期せぬ妊娠はその後の生活設計にマイナスの影響を及ぼしやすいことから、女性のリプロダクティブヘルスに関して、産婦人科医師や助産師、保健師などを活用して身近な地域に相談体制を作る必要がある。

 また学校教育においても、正しい性知識教育を学習指導要領による教科教育(保健体育等)の中に位置づけ、こどもの発達段階に応じて教育すること。特別支援学校においても、通学する児童・生徒の障害特性等に応じた性教育について、工夫することを位置づけていく必要がある。

2.妊婦健診や乳児健診の徹底と未受診者への訪問など、母子保健の充実を図ること。(厚生労働省)

 現在、乳児家庭全戸訪問事業と養育支援訪問事業により、子育て世帯に対し保健師等による家庭訪問が実施されている。しかし、未受診家庭に対する保健師の訪問等、さらに充実を図っている地域がある一方で、未だに実施されていない地域もあるなど、地域間格差が大きい。

 これらの事業の実施率・実施内容を改善し、前者の事業を「妊娠中に数次の訪問」「満一歳まで数次の訪問」に拡大すること。定期の訪問は親と専門職が顔の見える関係を作り、信頼関係が醸成されることで、虐待リスクの早期把握と適切な支援につながるものと考える。

3.虐待の背景にある貧困対策と育児支援を効果的に連動させること。(厚生労働省・文部科学省・総務省)

 母子手帳を持たず直前に医療機関に駆け込む「飛び込み出産」や、住所不定などのリスク要因をもつ母親に対しては、医療機関と市区町村双方のソーシャルワーカーが連携し、支援施設への入所や公営住宅の斡旋、保護の支給などにより適切なフォローを行う。出産に伴う金銭的負担軽減として、児童福祉法による助産制度を拡大し、必要があると判断される場合は、指定施設でなくとも制度適用を行うこと。

 また、一時保育や学童保育の拡充を急ぎ、地域子育て支援センター等に保健師や助産師、社会福祉士(ソーシャルワーカー)などを常駐させ、1人親家庭、ステップファミリー、育児ノイローゼ、多胎児、障害児などへの支援として子育て相談ができる体制を整備する。

 さらに、貧困世帯(生活保護受給やそれに準ずる世帯)のこども達の学費や学用品費・学納金等については、就学援助制度を充実するとともに、現行の貸付制度に加え、給付型(返還不要)の奨学金を充実させること。

4.児童福祉司制度を抜本的に見直し、専門性と質の確保に努めること。(厚生労働省・総務省)

 2005年の児童福祉法施行令改正により児童福祉司の配置基準が「人口概ね5万人〜8万人に1人」に改められたが、児童福祉司一人あたりの平均担当ケース数は、諸外国が一人あたり20件であるのに対し、わが国では一人あたり107件とされ、激増する児童虐待に対応できない。配置基準のさらなる見直しが急務である。

 市町村の児童相談担当職員と児童相談所の児童福祉司については、現在の任用資格から、社会福祉士資格所持者をはじめとする福祉についての専門性を有する人材に切り替え、専門職の増員を図るとともに定期的な研修・訓練を義務づけることにより、ソーシャルワーク技能の向上、維持に務めることとする。

 なおそれに伴い、地方公務員採用の仕組み(地方公務員法第15条〜第22条)について、所用の見直しを行うこと。

5.社会的養護の充実を図ること。(厚生労働省)

 従来の施設中心の養護体制を抜本的に見直し、児童福祉施設の地域化・小規模化を推進し家庭的養護のもとに子どもの成長に寄り添うケアを実現する。

 また、里親に対する研修の充実や、密室にならない仕組みの導入(社会福祉士等による定期的な家庭訪問等)など、里親支援の体制を整備し、最も家庭に近い養育形態といわれる里親制度の普及・拡充を図ること。

 なお、緊急に子どもを保護する一時保護所は大半が児童相談所に併設されているが、保護の事由が様々な子どもが混合で処遇されている問題がある。ひとり一人の子どもに丁寧なケアが求められることから、機能別(虐待,非行,障害等)の保護所の必要性が指摘されている。また、保護期間中の教育や医療などのニーズに対しても、その体制は極めて不十分である。

 質的にも量的にも圧倒的に不足する一時保護機能を抜本的に見直し、身近な地域や医療機関でも担えるように必要な整備を行うこと。

6.児童養護施設退所後の子どもの居場所作り (厚生労働省)

 義務教育を修了した子ども(高年齢児)は、高校進学や就職等さまざまな進路に分かれる。経済的な困難を抱えたまま社会に出ることのないよう、自立援助ホーム(児童自立生活援助事業)やグループホーム等の整備を緊急に行い、自立した社会生活に向けての居場所作りを支援する。

◇児童虐待を予防するしくみ作り

1.研修による自治体職員全体の質の底上げを図ること。(総務省・厚生労働省)

 平成21年度に行われた子ども未来財団の調査「要保護児童対策地域協議会の機能強化のための研修プログラム作成に関する研究」(主任研究者:加藤曜子氏)は、職員研修の実態を調査したものであるが、予算不足を上げた自治体は都道府県・政令市では23%、市町村では67%にものぼっている。時間がない、人員不足などの理由で職員研修を行っていない市町村は7割と高率である。

 しかし住民生活に最も身近な自治体では、たとえば戸籍係が離婚届を受理する際に、母子・父子家庭向けサービスを紹介するなど、従来の「申請主義」から脱却し、情報弱者になりがちな人を行政全体でサポートする仕組みが不可欠である。

 児童虐待に対する一次対応の向上のために、職員研修を定期的に実施し自治体職員全体の質の底上げを図ること。

2.教員養成課程に児童福祉や家族支援を加えること。(文部科学省)

 家庭内の生活環境やいじめなど、子どもの置かれている状況や環境をいち早く把握し対応するためには、児童福祉の知識と家族支援の技術が求められる。

 教員養成課程の中に、広い視野から家庭や地域と連携して問題解決にあたる視点を持てる科目として、「児童福祉論」や「家族支援論」等、福祉や医療に関する基礎知識を学ぶ科目を教員免許取得に必要な履修単位に加えるとともに、現行の「福祉施設実習」の充実や、教育実習期間中にスクールソーシャルワーカーやスクールカウンセラーと接触する時間の確保を義務づける等実践的なカリキュラムを組むこと。

3.すべての小・中学校にスクールソーシャルワーカーを配置すること。(文部科学省)

 児童虐待の背景には、家庭が直面している深刻な貧困があることが多い。また虐待者である保護者も、複雑な家庭背景や自身の疾患等、様々な困難を抱えている。

 こうした環境にある子どもたちを、マンツーマンで支援するとともに、孤立しがちな親を支え、生活基盤を安定させるための支援の充実、関係各所の相互連携体制の構築等、専門家による社会的資源のコーディネートが必要である。

 国公立の小・中学校に、社会福祉士の資格と十分な技能を有するスクールソーシャルワーカーを、十分な日数を確保し配置を義務づけること。

 私立学校においても、スクールソーシャルワーカーを配置しようとする時には、その費用の一定割合を補助すること。

◇機関の連携・協力と環境整備

1.要保護児童対策地域協議会の積極活用を推進すること。(総務省・厚生労働省・文部科学省)

 児童虐待防止法第4条には、国と並んで地方自治体の責務も明記され、関係機関、民間団体との連携強化が盛り込まれている。また、2003年の児童福祉法改正により、市町村に「要保護児童対策地域協議会(虐待ネットワーク)」の設置が努力義務として規定されたが、十分機能しているとは言えず、地域間格差が生じている。

 子どもを守る地域ネットワークとしての機能を果たすためには、地域の専門機関や地域資源(子育て支援NPO等)などの人的資源をコーディネートし運営していく高い専門性が要求される。リーダーとなる人材の資質の見直しや、財政面からの支援が必要である。

 また保育や教育の現場にある者は、虐待を発見しやすい立場であることを自覚し、積極的に要保護児童地域対策協議会を活用するよう、指導・啓発を行われたい。

2.児童相談所と警察との連携・協議の体制を構築すること。(厚生労働省・警察庁)

  要保護児童対策地域協議会には、原則として警察の参加を義務づけ、個別事例に関して相互の情報交換や意見交換を積極的に行う体制を整備すること。また明らかに事件性があると判断される時には、「刑法」や「警察官職務執行法」を適用し、被虐待児童の生命を最優先に活動すること。

◇子どもの権利・利益を守る

1.一定の期限を設けて親権の全部か一部を停止できるよう、民法の関連規定を見直すこと。 (法務省)

 従来の親権喪失制度は、いったん喪失手続きが行われると回復させるのは困難であることから、親子関係に与える影響が大きすぎるとして、児童虐待事案に適用されるケースはほとんどなかったが、親権の剥奪ではなく一時停止や、子供の世話や監督をする「監護権」などを停止する制度を導入することで、より柔軟な適用が可能となり実効性が高まる。

 さらに緊急(親子分離や医療行為等)の場合における「職務代行者」に、児童相談所長などを選任することにより、実効性の高い行動をとることを可能とする。

2.未成年後見人制度を見直し、充実を図ること。(法務省)

 未成年後見人には個人の資格でしか就任できないが、子の戸籍に氏名が記載されるなどの理由で躊躇する場合も多く、虐待のケースでもなり手がいないために親権喪失宣告申し立てを見送るケースもあると聞く。

 施設や里親のもとで暮らす「両親がいない」「両親とも不明」「不詳(棄児等)」の子どもたちは全国に約7200人とされる。この子どもたちが15歳、あるいは18歳で措置解除された後、20歳になるまで親権を行使する者がいなくなり、事実上の無権利状態に置かれることとなる。また、いわゆる「親のいない子」への子ども手当の支給問題を解決するためにも、未成年後見人制度の見直しと確立が急務である。

 成年後見人についてはすでに法人であっても就任できることから、児童相談所長や市町村長、あるいは都道府県弁護士会や都道府県社会福祉士会等が未成年後見人の任を果たせるよう、法整備をすること。

以上



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