HOME政策>【特集】中谷巌さん・新自由主義経済の限界は明確

社民党の政策

【特集】中谷巌さん・新自由主義経済の限界は明確

【特集】中谷巌さん インタビュー

新自由主義経済の限界は明確
ビジョンと政策軸こそが必要

米国を震源とする金融崩壊と経済恐慌は、日本経済にも大きな影響を及ぼし、昨年の秋以降、非正規労働者が大量解雇されるなど大きな社会問題に発展している。これと時期を同じくして、かつてグローバル資本主義と構造改革(新自由主義)推進の急先鋒(せんぽう)だった経済学者の中谷巌さんが、「懺悔(ざんげ)の書」を著し、グローバル資本主義批判に転じた。中谷さんに真意を伺った。

『資本主義はなぜ自壊したのか』■なかたに・いわお 1942年、大阪生まれ。一橋大学経済学部卒。日産自動車勤務の後、米ハーバード大学経済学博士(Ph.D)。同大学講師・大阪大学教授などを経て一橋大学教授。細川内閣の「経済改革研究会」委員、小渕内閣の「経済戦略会議」議長代理を歴任。99年、ソニー(株)取締役に就任。
現在、三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)理事長。多摩大学教授。一橋大学名誉教授。『資本主義はなぜ自壊したのか』』(集英社インターナショナル)は現在、ベストセラー中。

  ―中谷さんは以前は新自由主義・グローバル資本主義推進の急先鋒でしたが、昨年12月に出版されたご著書『資本主義はなぜ自壊したのか』(集英社インターナショナル)の中で「転向」宣言をし、新自由主義的なあり方を批判するようになりました。なぜ考えが変わったのですか。

中谷巌・三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)理事長 新自由主義は、「市場」をできるだけ活用して、小さな政府の下で自己責任を原則とするものです。「市場」は人々が自由意思に基づいて売買するため、「市場」で決められる資源配分は「民主的」で最適なものになる、という発想が原点にあります。

しかし、「市場」は万能ではありません。社会の行く末を「市場」に委ねるのではなく、「私たちはどういう社会に住みたいのか」「どういった社会にすれば幸福になれるのか」という観点から、あるべき社会のビジョンをまず打ち立て、その上で「それを実現するためには『市場』をどう利用すべきか」という発想こそが必要でした。「市場」を過信したことが間違いだった、ということです。

  ―日本においても1980年代後半以降、新自由主義とグローバル資本主義の方向に大きく舵(かじ)が切られ、現在に至っています。しかし、昨年秋以降の世界的な金融危機と経済恐慌に伴い、非正規労働者が多数解雇され、日本社会の軋(きし)みが表面化しているようです。

●貧困生み出す要因

中谷 「マーケット(市場)がうまく機能しない分野については、民主主義のプロセスを経た政治に委ねればいい」といった考えは、ナイーブすぎるのですね。現に、貧困層の増大と社会の分断が進行し、現在のような望ましくないさまざまな現象が起きています。

世界的に見ても、新自由主義とグローバル資本主義は、経済を不安定にし、貧困と格差拡大を促進し、環境破壊を招く、といった要因になっているのです。

  ―日本における非正規労働者の低賃金と使い捨てといった構造は、新自由主義とグローバル資本主義の必然なのですか。

中谷 いや、必然ではありませんが、的確な政策がとられなければそういった危険性がある、ということです。同じ労働をしているのに、非正規労働者は正社員より給料は安く、ボーナスも出ない、雇用保険もない、といった国は、世界でも数少ないのです。同一労働・同一賃金が世界の流れです。もし非正規労働者に雇用保障がないのであれば、普段はかえって正社員より高い給料をもらう権利があるのではないでしょうか。

●企業は原点に戻れ

  ―日本の政治が現在のような雇用構造を可能にする政策を推し進め、それが企業にとって短期的には利益になるからこそ、現在のような状況が続いているのではないですか。

中谷 そうなのですが、長期的には、正社員と非正規労働者の待遇の大きな格差が、企業内の人間関係を分断し、かえって企業の競争力をなくす結果を招くことになる、という点も見逃してはなりません。戦後日本の企業社会は人間関係を大事にしてきたからこそ、末端の労働者も責任感を持って仕事に打ち込み、それが企業の発展に寄与してきたのです。日本の企業経営者は、原点に立ち返る必要があるのではないでしょうか。

  ―「現在の日本社会における諸問題は、構造改革が不十分だから起きるのだ」と主張する人々もいます。

中谷 そういった考えの人は、これまで述べた新自由主義とグローバル資本主義に内在する矛盾を認識していないのです。「そこに矛盾がある」ということをまず認識し、その上で「それを是正するには何をしたらいいのか」といった発想をしなければ、根本的な問題はいつまでたっても解決できません。

●消費税どうするか

  ―今、社会民主党に求めることは何ですか。

中谷 社民党に限りませんが、日本の野党がちょっとだらしないのは、これだけ貧困層の問題が噴出し、社会の分断現象が起きているのに、自民党と違う政策軸がなかなか出てこないところです。もし「もっと平等な社会」という方向性を目指すのならば、そのためには税制のあり方を抜本的に変えなければならないかもしれません。そう考えれば、例えば消費税の税率を上げることも選択肢として出てきてもおかしくないはずです。

  ―しかし、消費税の税率アップは、低所得層の人々にとっては特に大きな負担増になります。

中谷 そのとおりです。そこで私は「還付金付き消費税」方式を提案しているのです。消費税を一律20%にする代わりに、年収1000万円以下の世帯には年間40万円を還付する。これだと、年間消費が200万円の世帯は、差し引き消費税がゼロということになります。200万円未満の世帯は還付金が消費税額を上回るので、貧困層の所得をかさ上げすることができます。

社民党も消費税率アップには「絶対反対!」とすぐに反応しますが、もっと全体を見て議論して政策を打ち出せば、国民の支持が得られるのではないでしょうか。

実際、北欧諸国の多くは、消費税をはじめとする国民負担率が非常に高いです。しかも、経済はとてもうまくいっています。

  ―「社会民主主義=消費税率引き上げ反対」という必然性はない、ということですね。

中谷 そのとおりです。まず大きなビジョンを打ち立て、そのためには税制をどうするか、雇用のあり方をどうするか、といったことを議論していくことが必要だと思うのです。

―社会新報2009年3月4日号 (聞き手=ルポライター・星徹)―

【グローバル資本主義】=米国主導で進んだ市場原理主義は世界中に広がり、金融工学を駆使して巨額の資本が瞬時に世界中を駆け巡るようになった。しかし、このような「グローバル資本主義」、あるいは「行きすぎたアメリカ型金融資本主義」は、世界経済を大不況のどん底に突き落としてしまった。

(関連)
政策カジノ資本主義を脱し内需主導経済に転換を
カジノ資本主義を脱し内需主導経済に転換を

政策消費税大増税は本当に必要か
政策「生活・地域の底上げ宣言」(改定版)…特別会計の余剰資金の活用、法人税率の復元、高額所得者の所得減税の廃止、減価償却減税の是正、一般財源化した道路特定財源の活用など、抜本的な歳出見直しにより年約11兆円は捻出でき、赤字国債発行・消費税率引き上げは不要です。

 

HOME政策>【特集】中谷巌さん・新自由主義経済の限界は明確