HOME政策>労働基本権制約下の国家公務員の給与引き下げ問題について

社民党の政策

2011年5月25日

労働基本権制約下の国家公務員の給与引き下げ問題について

社会民主党公務員問題対策特別委員会

1.人事院勧告の取り扱いを巡って

  昨年の人事院勧告の取り扱いを巡って、本来、人事院勧告制度尊重の立場にある閣僚や与党幹部から、勧告以上の給与引き下げを求める発言が相次いだ。社民党は労働基本権が制約されている現状で、また国民のための良質の公共サービスの確保のためにも、人事院勧告制度を無視した一方的給与削減等は断じて行わないことなどを政府・民主党に強く申し入れを行い、最終的に人事院勧告どおりの法案を国会に提出することになった。しかし、政府は、その後も民主党がマニフェストで掲げた「国家公務員総人件費2割削減」に基づき、公務員の総人件費削減のための「給与法改正案」の今国会への提出をめざしてきた。

2.東日本大震災を奇貨とした提案

  こうした流れの中で、東日本大震災を奇貨としたかのように、5月13日、片山総務大臣は、特例法案の施行から2013年度末までの間、俸給・ボーナス支給額の1割をカットするとの特例的削減を労働側に提案した。その後の交渉の結果、@本省課長・室長級以上の幹部職員の月給は10%削減、A課長補佐・係長級は8%、係員は5%に削減幅を緩和、B期末・勤勉手当や管理職手当については一律10%削減、C今回の給与カットは将来の退職手当額には反映させないなどとなり、労働側も「極めて厳しい」という認識に立ちながら、「労働基本権を回復させるという歴史的な課題を実現するための前段として、大変困難な交渉」を行った結果、「復旧・復興に向けて全力をあげる」として23日に受け入れるに至った。とはいえ、わずか10日間で、下部討議の時間も保障されままの政府の今回の対応は多くの問題を抱えている。

3.人事院勧告無視の給与引き下げ

  そもそも国家公務員の給与水準は、労働基本権が制約されている現状においては、代償措置としての人事院勧告を踏まえて政府が決定し、関連法案を提出する仕組みとなっている。労働基本権が回復されるまでは、労働基本権制約の代償措置の根幹をなす人事院勧告を尊重するのが憲法の要請するところである。しかし、政府は、労働基本権制約下であるにもかかわらず、「給与引き下げの経緯やその措置が異例である」(片山総務大臣)として、労働三権の制約に関する議論が決着しないまま、人事院勧告制度を無視した格好で給与引き下げのための提案・交渉に乗り出した。いくら「異例」とはいっても、基本権回復以前の行為である以上、自律的労使関係制度の導入を盛り込んでいる国家公務員制度改革関連法案の「先取り」との「言い訳」は通らない。適法とは言いがたく、憲法上の問題も生じかねない。

4.本質は民主党の総人件費抑制路線に基づく給与カット

  また、「復興に向け国家公務員が痛みを分かち合うべき」であるとか、「復興のための財源捻出に協力すべき」ともいわれているが、復興の全体のビジョンやその財源確保策が明らかでない中で、人件費にまず手をつけるやり方は、民間企業において再建計画を立てることなく人件費だけを削る経営者と同じであり、危機克服についての政府の無能・無策ぶり端的に示すものである。しかも、自ら被災しながら被災地で奮闘する国家公務員の給与の取り扱いについても除外されていない。片山大臣が「今回の措置は震災の復興財源確保を前提にするものではない」とするように、削減原資は、「結果的には復興財源に活用されることになる」としても、今回の引き下げは、復興財源捻出を名目にしながらも、民主党の総人件費抑制路線に基づく給与カットに本質がある。

5.消費税率アップの露払いか

  あわせて今回の給与引き下げの背後には、増税路線があることがぬぐい去れない。国会議員の歳費返上や国家公務員の給与カットだけで復興財源をまかなうことなど到底不可能であり、大衆増税である消費税増税が必ずこのあとに待ち構えている。政府が給与引き下げの交渉を急いだのは自らが決めた6月の税と社会保障の一体改革があると言わざるを得ず、消費税増税の地ならしのための給与カットである。世界的な金融危機、今回の震災、そして収束への目途すら立たない原発事故、その中で消費税を引き上げれば、日本経済そのものがメルトダウンを起こしかねない。

6.公務員の生活保障の観点からも問題

  ここ12年余りで、公務員給与は民間を上回るペースで削減されており、その額はすでに120万円の年収減となっている。今回の給与引き下げは、さらに追い討ちをかけるものであり、たとえば、40歳の本省係長級(配偶者、子2人)で月額2万3千円余、年間では一時金含めて41万円程度の削減となると推計(給与月額32万1500円→29万7900円、年間給与513万円→472万円)され、公務員の生活保障の観点からも問題がある。また、55歳を超える職員については、昨年の人勧において、1.5%の給与削減が行われているが、今回はその水準をベースにさらに引き下げることになる。査定で決まる勤勉手当や、地域間格差の調整のためとされている地域手当も対象とすることは、手当の本来の目的に反する。公務職場での膨大な数に上る非常勤職員への改善措置を含めたトータルな考え方もない。

7.士気の低下や人材の確保・定着にも影響

  国民生活の安心と安全を確保する公共サービスの再構築に向けた取り組みが求められている中、多くの公務労働者は、極めて厳しい労働環境のもとで努力しているし、定員削減にもかかわらず、東日本大震災への対応に全力で取り組んでいる。今後、復興構想に基づいて第二次補正予算等が編成されれば、さらなる対策にも取り組まなければならない。そうした中、給与引き下げが行われ、さらに増税ということになると、公務員だけが二重・三重に重荷を背負うことになる。士気の低下や、中長期的に優秀な人材の確保・定着にも影響が出ることも懸念される。

8.地公や独法への波及

  今回の引き下げは3年限りとされているが、財政事情や震災対策を理由に、さらなる給与削減が繰り返され、マイナスのスパイラルに落ち込むのではないかとの懸念が残る。また、「同様のことを自治体に求めることは一切考えていない」(片山総務大臣)とはいっても、独立行政法人運営交付金等の予算措置の取扱いや地方交付税及び義務教育国庫負担金等の予算措置等についての確約や具体的担保もなく、現に財務省筋に基づく地方交付税削減を通じた給与切り下げが報じられている。「国家公務員準拠」などによって、地方公務員や独立行政法人職員に波及しかねない。

9.マクロ経済や復興にも影響

  震災で日本経済の落ち込みが懸念される中、個人消費を増やし実体経済の回復をはかり、東北の復興につなげていくためにも、労働者の賃金の底上げや雇用の安定こそが求められている。にもかかわらず、今回の引き下げは、各種社会的給付の引き下げや民間中小の人件費等の押し下げにもつながり、個人消費の落ち込みを加速させ、経済全体の悪化や震災復興への悪影響も心配される。

10.明らかになる公務公共サービスの重要性

  震災を通して、構造改革路線の誤りと公務公共サービスの重要性が改めて明らかとなっている。政府は、公共サービス基本法に基づいて良質な公共サービスが適正かつ確実に実施されるよう、公務員等公共サービスに従事する者に対し、社会的に公正な賃金・労働条件を確保する必要がある。

11.労働基本権を回復させるという歴史的な課題の実現を

  以上の立場から、社民党は、政府と労働側の交渉を注視するとともに、政府の提出する給与法等改正案に対しては、反対の立場で、厳しく臨む。国民のための良質な公務公共サービスの確保のためにも、ILO条約及びILO勧告を満たした労働基本権の確立による労使関係制度の抜本的改革の実現に向け、社民党としても全力で取り組んでいく。

以上

HOME政策>労働基本権制約下の国家公務員の給与引き下げ問題について