今こそ平和のために、内需主導経済に転換を

5.危機に向きあう二つの選択肢

 では、アメリカから世界に波及する資本主義経済・市場の歴史的危機に、日本は、どう向きあい、対処すればいいのか。選択肢は大きく二つしかない。

 シナリオ1

 ひきつづき輸出や海外進出による企業利益拡大を国益とする立場から、大企業の要請にこたえて、対外市場、とくにアメリカ市場・経済の回復を最優先で追求する。柱は、アメリカの金融市場と、そこに基地を置くカジノ資本主義の建て直しだ。この方向からは、日本以外、欧米の金融機関の救済・再編―金融市場の「正常化」ために、日本として巨額の負担を引け受けるという問題が不可避的に生じる。

 IMFは、危機への対策として、世界の金融機関全体で、数年間に6750億ドルの資本増強、公的資金による不良資産の買い取りは米欧それぞれ1兆ドル規模が必要と試算している。これだけでも充分巨額だが、損失拡大のペースからすると到底足りない。麻生首相や中川財務相は、かつての日本の金融破たんを、「他国に迷惑をかけずに堂々きりぬけた」と経験をふりかざして、公的資金による金融機関への資本注入を行うよう各国当局によびかけているが、日本の金融破たんのケースと規模がちがい、実行しようとすれば、かならず「他国に迷惑」がおよぶ。日本政府としてもよびかけたからには、そして何よりも自国経済・企業の利益確保のために、協力を求められれば負担を担わざるをえない。

 すぐに出てくるのはアメリカへの資金協力だ。イラク・アフガン戦費の拡大や減税によって財政赤字をいちだんと悪化させるアメリカには、すでに最低でも住宅公社支援で2000億ドル、不良資産買い取りに7000億ドルもの財政負担がのしかかっている。国債発行の上限改定による国債増発でのりきろうとしているが、それも、世界のドル離れに逆行して、いまだに外貨準備のほとんどを米国債・証券で運用する日本という、確実で安定した米国債の購入・保有者がいるからだ。ブッシュ政権は日本政府にむけ、追加のアフガン戦協力措置として、5年間で最大200億ドルの戦費負担を求めてきているという。事実とすれば、これも日本経済の対米依存を見透かしたうえでの金融危機に絡めた変化球である。

 いずれにせよ対米依存の利益拡大構造を維持するために、ドルを支え、アメリカ中心の金融市場―カジノ資本主義の世界システムを守ろうとすれば、膨大な資金・財政負担が避けられない。しかも赤字国債増発などの手段も使って捻出された資金は、ひとたび金融市場に投入されるや投機資金として世界を駆け巡るだけで、国内経済には回ってこない。回ってくるのは、財政赤字、民生分野のカット、増税等々の大衆負担、ツケ払いだけである。

 ちなみに野村ホールディングスや三菱UFJをはじめ損失が「軽微」な日本の金融機関は、危機を投資チャンスとみて、弱体化する米欧金融機関への買収を含めた再編攻勢を活発化させている。今後、米欧金融機関の資産や商圏をとりこんで巨大化する日本の金融機関が、世界の金融市場における影響力を広げていくことは間違いない。だが、これには、日本経済が擬制経済のマネーゲームにますます深く絡めとられ、したがって金融パニックという時限爆弾を自らの懐深く抱えこむという重大なリスク―代償がともなう。

 シナリオ2 社民主義こそが作る。安心な生活、そして平和。

 世界的な金融危機到来を日本経済にとっての歴史的な転換期ととらえ、対米依存からの脱却を進める。対米依存を止めるということは、輸出企業・進出企業中心の経済構造それ自体をあらため、内需主導にかじを切りかえるということである。最近、金融危機対策の議論のなかで、内需主導ということが盛んに主張されてはいる。しかし、そのほとんどは、輸出が後退するなかで、その穴埋めのために国内景気対策に注力すべきというもので、一時的な「バラマキ」の性格が濃厚だ。そうではなくて、ここでの内需主導とは、社会的に必要なサービス・産業(暮らしの経済)の充足を中心として国内需要を満たす活動・事業に、経済の軸足を本格的に移すということである。それはすなわち、人々の欲望(ウォンツ)ではなく、人間が生存するために必要なニーズ(基本的必要)にこそ、税金を使うということである。

 賃金の増加、格差の是正、雇用や社会保障の根本的立て直し、福祉・医療・子育て・教育分野への投資の増大、国産品中心・自給率向上の推進、自然エネルギーへの転換など、将来を見据えた政策が必要である。重点としては、

(1)最低賃金の大幅引き上げ、同一労働・同一賃金の徹底、派遣型労働の原則禁止、公契約法の制定、

(2)誰もが「健康で文化的な生活を営む」権利を行使できるよう、公的医療・介護・年金はじめ社会保障措置・制度の再確立、

(3)子育て支援やOECD最低水準といわれる教育予算の拡充、

(4)中小企業に対するセーフティーネットの整備、

(5)公共交通網のきめ細かな整備、とくに地方・過疎地の利便性を配慮、

(6)地域単位の経済圏構築を視野にいれた地方経済の振興、

(7)自給レベル達成にむけた農林水産業の復興、

(8)環境・エネルギー革命ともいうべき、自然エネルギー、再生可能エネルギーへの転換、

(9)税制の累進制強化・所得再配分機能の強化。

 農林水産業や社会保障、雇用、地方経済に代表されるように、私たちが重視する分野は、いずれも新自由主義路線の小泉「構造改革」によって非効率と目の敵にされ、企業競争力強化・大企業優先の犠牲となって切り捨てられた部門である。そのあげく、どうなったか。「偽装」経営が蔓延し、食糧自給率は40%を割り込んで、輸入食品依存が食の安全性を揺るがしている。社会のセーフティーネットは、それこそずたずたになり、「シャッター通り」が全国に広がった。派遣労働の現場では、人格・人間性を無視する雇用と労働環境のもとで、多くの労働者が身も心もボロボロにされて苦しんでいる。採算や効率がどうあれ、必要なものは必要だ。ニーズである――このあたりまえの端的な事実を、「構造改革」の痛みをともなう貴重な教訓として、いま私たちは学ばされているのである。そういう身に沁みる教訓を生かして、「構造改革」路線と決別し、誰もが「人」として生活していくために必要な産業、事業、サービスを柱に組み立てられるものが内需主導経済なのだ。

 夢物語ではない。アメリカ市場・対米関係を維持するために何百、何千億ドルもの国家的資金を使うことを思えば、その使いみちを変えるだけで充分に実現が可能だ。新自由主義によれば、非効率な事業を国など公的機関の支援で維持することは禁じ手のはずだが、ほとんどペテンに近い金融工学を操って稼ぎまくった金融エリートたちが没落しそうになった途端に、退場を求める「市場の論理」に逆らって「公的資金投入で金融機関を救え」と大合唱しているのは、当の新自由主義者たちである。しかも、投入される公的資金の規模は、一国の年間予算にも比する。要するに、金融資本・大企業の利益拡大を保証する側に立つのか、それよりも「健康で文化的な生活」を優先するのかの違いがあるだけなのである。

 財政とは、国民生活支援のためにある。特別会計の積立金・剰余金の活用、不公平税制の是正、道路特定財源の一般財源化、防衛費や公共事業等の見直しから生まれる財源を活用すれば、赤字国債にも消費税の引き上げも必要ない。

 内需主導に転換すると、大企業の利益縮小などで資本主義の尺度で計る経済成長は鈍り、後退さえするかもしれない。しかし社会の必要性を満たす足るを知る経済のもとで、安心して働くことのできる職場と、暮らせる賃金・年金制度があり、誰にも開かれた教育の場があり、いざという場合に、すぐ頼ることのできる社会的セーフティーネットがあれば、それで充分とはいえないだろうか。利潤・利益のあくなき拡大追求や経済成長至上主義と縁を切る内需主導経済は、それ自体、おのずと「地球に優しい」エコ経済となろう。

 内需主導といっても、もちろん鎖国や自給自足をめざすわけではない。近隣アジア諸国を中心に、欧米も含めてバランスのとれた経済関係、自分たちの利益・要求を一方的に押しつけない共栄共存の協力関係を構築していく。重要なことは、こうしてアメリカ依存を経済面から脱却していくことで、アメリカの軍産複合体が引き起こす戦争行動に、問答無用で同調、加担する必要もなくなるということである。そうなって初めて、国際平和や国連活動への日本の協力・貢献のあり方を率直に議論することもできるようになる。

 一見遠回りなようだが、歴史的な金融危機を転機ととらえ、対米自立の内需主導経済構築にむかうことしか、この難局をのりきる道はない。憲法原理が最優先する人間的権利を、日本社会に定着させ、「平和」の道を現実的にきり拓く。それが、今こそ日本にとって必要な、社民主義なのである

 

(参考)世界各国の主な金融危機対策

・米政府、住宅公社2社を政府管理下に置く(9.7)。公的資金2000億ドルを段階的に投入。

・米政府、破たん危機の保険会社AIGを事実上の政府管理に。最大850億ドルの融資を決定(9.16)

・主要国10中央銀行が協調して短期金融市場むけにドル資金を供給(9.18)〜。総枠6200億ドル。

・米金融安定化法成立(10.3)。最大7000億ドルの公的資金で不良資産買い取り。

・米FRB、欧州中央銀行など欧米6中央銀行が協調して緊急利下げ(10.8)。
一律0.5%の下げ幅。中国、UAE、香港、クウェートも同調。

・ 英政府、包括的な銀行救済策を発表(10.8)。総額500億ポンドの基金設立し、大手8銀行に資本注入。

・ アイスランド国内最大のカウプシング銀行が政府管理に(10.9)。すでに政府の管理下にある2行と合わせ、アイスランドの上位3銀行すべてが政府管理となる。

 

 

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