今こそ平和のために、内需主導経済に転換を

2.深刻度は大恐慌―世界不況を超える

 9月後半の半月間に、米金融市場を震源として、これだけのことが起こった。1929年ウォール街の株暴落を引き金にはじまった世界大恐慌―30年代不況以来の危機だとの警鐘も鳴らされている。しかし、危機の本質は、80年前よりも、もっとずっと深刻だ。当時は、恐慌にはじまる長期不況からの脱出策として、管理通貨制の導入と、そのもとでのケインズ主義型政策―国家の財政投入による需要創出策の展開という処方箋があった。もっとも、このニューディールに代表される処方だけでは力不足で、世界市場が本格的に再生するためには、結局、第2次世界戦争という人類史的惨事への突入と、戦争による地球規模での生産力破壊(市場経済のリセット)を経なければならなかったのではあるが…。それにしても戦後は、「唯一の戦勝国」アメリカの圧倒的経済力と基軸通貨ドルという確かな基盤を得て、管理通貨制とケインズ型需要創出策が資本主義の急速な市場拡大に一定の有効性を発揮したのである。

 だが、もう、この処方箋は役に立たない。なぜか。

 大恐慌時代の資本主義経済の主軸は、まだ生産物の需給関係を中心に編成される実体経済・実物経済であった。ところが、いまでは、その実体経済は飽和化し、溢れる過剰資金は、株・債券という擬制資本売買を中心とする金融市場に雪崩れ込んでいる。そのテコ(レバレッジ)となったのが、80年代中盤、米英先行で進められた金融ビッグバンに始まる徹底した金融市場の規制緩和・自由化だ。

 「自由化」による金融市場の膨張は、資本主義経済を大きく変容させた。本来、経済活動を円滑に回す「潤滑油」の役割をはたすはずの金融は、すでに実体経済をはるかに凌駕する規模に巨大化し、実体経済から浮遊し、むしろその動きを支配し、支配することで攪乱する存在と化している。実体経済の規模の目安となるGDP(国内総生産)の世界トータルは、2006年時点でおよそ48兆ドル。それに対して、世界の株式時価総額は、ピークの07年10月末には63兆ドル超に達した。またCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)は、倒産やローン焦げつきの損失を保証する信用デリバティブ(金融派生商品)といわれる証券化商品であり、AIGの経営悪化の誘因として有名になったが、その取引残高(推定元本)は2007年末で62兆ドルを超える。世界のデリバティブ取引全体の想定元本にいたっては、6000兆ドルという途方もない数字にまで膨らんでいる。

 こうして膨張をつづける投機資金が、濡れ手に粟の利益を求めて世界中を、まさにグローバルに動き回ることが、アジアで、ロシアで、中南米で、金融・不動産バブルをつくっては壊し、実需とは無縁な原油や農産物価格の騰貴・暴落を引き起こしている。擬制資本を活用する金融投機主導のカジノ資本主義が、世界経済の命運を握ってしまったのである。

 このように金融市場でのカネ転がしが莫大な利益に直結する――カネがカネを生むカジノ資本主義にあっては、いくら国家が財政出動による需要創出・景気浮揚をはかっても、90年代初めの日本のバブル不況対策がそうであったように、投入された資金が実体経済面にとどまって需要と生産を刺激し、景気拡大へと波及していくということにはならず、その多くは投機資金として金融市場に吸い上げられてしまう。ザルに水を流すようなものである。残る手段は、金融自由化を逆行させて金融市場と投機への統制を断行し、金融を実体経済の「潤滑油」として「正常化」させることしかないが、それは、すでに実体経済の市場規模を大きくはみ出して利潤拡大・増殖運動を展開する金融資本・多国籍巨大企業にとっては、まったく選択不可能だ。そもそも無限の利益拡大―増殖運動を本質とする資本の活動が実体経済の成長速度に収まりきれなくなり(飽和化)、その当然の帰結として、実体経済のしばりに制約されないカジノ資本主義に行き着いたのだから、カジノ資本主義を止めるということは資本の利益拡大・増殖運動そのものを止めるということに等しい。

 結局、金融危機への対処策は、それ自体がバブルにほかならない金融市場・擬制資本市場を潰さないよう、巨額の公的資金という「空気」を吹き込み、金融機関・投資家が荒稼ぎできる賭場を維持しつづけることしかない。それは金融崩壊という資本主義経済の破滅的危機をいっそう深化させながら先送りするばかりか、国家財政のさらなる悪化を通じて、実体経済の傷を深め、各国国民大衆に投機で儲けまくった金融機関――リーマンブラザーズのファルドCEOは、00年から破たんまでの間に4億8000万ドルの私的報酬を得ていたことが米下院の公聴会で暴露された――と市場救済の負担をしわ寄せする方策とならざるをえない。

INDEX┃2┃

△ページTOP