当面の改憲の論点に対する見解

2017年 7月20日
第48回常任幹事会

社会民主党常任幹事会

 安倍首相が5月3日の日本国憲法施行70年の記念日に開かれた改憲派のシンポジウムへのビデオ・メッセージや読売新聞のインタビューで、9条に自衛隊を明文で書き込むという考え方や高等教育の無償化について提起し、「2020年を新しい憲法が施行される年にしたい」と言明しました。これを受け、自民党憲法改正推進本部は体制を強化し、9月に「たたき台」を作成し、公明党などとの協議を経て11月上旬に改憲案をまとめるとしています。

 現在、自民党憲法改正推進本部では、具体的な改憲項目として、@9条に自衛隊の根拠規定を追加、A幼児教育から高等教育までの無償化、B大規模災害時に国会議員の任期を延長する緊急事態条項の創設、C参議院選挙区の「合区」解消の4点を柱に論議が進められています。

 しかし、9条1項、2項を残すとは言っても、自衛隊の明記は大きな矛盾や危険を有しています。また、高等教育の無償化、参議院選挙の「合区」の解消、緊急事態における国会議員の任期の延長は、憲法の条文自体を改正しなくても対応できるものです。

 本見解を活用し、各地での改憲阻止・活憲運動を一層強化していきましょう。

1.憲法9条1項、2項を残しつつ、自衛隊の根拠規定を追加することについて

(1)危険な安倍改憲案
○明記されるのは集団的自衛権を行使する自衛隊

 安倍首相や自民党は、憲法9条1項「戦争放棄」、2項「戦力不保持、交戦権の否認」を残しつつ、新たに「3項」又は「9条の2」を設け、自衛隊を明記しようとしています。
 これは、国民の多くが「専守防衛」に徹し、国内外の災害救助や非軍事の平和維持活動を行う自衛隊を容認していることを利用し、違憲の戦争法に基づく「集団的自衛権を行使する自衛隊」を書き込み、再び戦争ができる国に転換しようという狙いであり、きわめて危険です。

○死文化する9条2項
 「戦力不保持」と「交戦権否認」を規定した9条2項を残すのであれば、自衛隊の違憲論の根拠が残ることになります。「3項」で自衛隊を明記すれば、自衛隊拡大の歯止めとなってきた2項を死文化することにつながります。
 「多くの憲法学者や政党の中には自衛隊を違憲だとする議論が、今なお存在している」から「自衛隊を明文で書き込む」というのであれば、多くの学者が違憲と指摘している集団的自衛権の行使を認める「戦争法」や閣議決定こそ、廃止すべきです。

【参考資料】自民党の憲法改正案のたたき台
9条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
(新設)
9条の2 前条の規定は、我が国を防衛するための必要最小限度の実力組織として自衛隊を設けることを妨げるものと解釈してはならない。
2 内閣総理大臣は、内閣を代表して自衛隊の最高の指揮監督権を有し、自衛隊は、その行動について国会の承認その他の民主的統制に服する。

(2)平和憲法の成り立ち
○侵略戦争と植民地支配、戦争の惨禍
 大日本帝国憲法下の日本は、侵略戦争と植民地支配に乗り出し、15年にわたった太平洋戦争では、日本人だけで310万人、アジア全体では2000万人を超える尊い人命を奪いました。戦争によって国民の自由や権利は奪われ、国民生活は困窮し、国土は焼け野原となりました。広島・長崎への原爆投下や沖縄戦、各地での空襲などによって、多くの国民が戦争の犠牲者となりました。

○再び政府の行為による戦争の惨禍を起こさせない決意
 第二次世界大戦による惨禍の反省と教訓から生まれた日本国憲法は、国民主権、平和主義、基本的人権の尊重の3原則を明記し、前文で「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにする」の決意をうたい、全世界の国民が「平和のうちに生存する権利」を有することを宣言し、そして9条で戦争の放棄、戦力不保持、交戦権の否認を明記して、政府が再び戦争を起こすことがないようにしたのです。

○日本国憲法は人類共有の財産、平和国家は国際公約
 このように、日本国憲法は、戦争自体の違法化へ着実に進んできた国際人道法の流れに沿って、「武力不行使の原則」を盛り込んだ国連憲章をさらに発展させ、「交戦権」を否認し、「戦力の不保持」を定め、生存権や幸福追求権を保障するなど、人類の叡智を結晶させた人類共有の財産というべきものです。戦争によって多くの命を失った代償であり、わが国が平和国家として歩むことを定めた国際的な公約であり、他の諸国とりわけアジア近隣諸国の人々から信頼をかち得てきた支柱でもあります。

(3)自衛権・自衛隊
○「専守防衛」の実力組織、海外での武力行使はしない
 わが国は、国会内外の議論の積み上げの中で、自衛権発動の3要件として、@我が国に対する急迫不正の侵害があること、A他にこれを排除する適当な手段がない場合に、B必要最小限度の実力行使で防衛する―としてきました。そして、「…他国に加えられた武力攻撃を阻止することをその内容とするいわゆる集団的自衛権の行使は、憲法上許されない」としてきました。したがって、歴代政権も、自衛隊は、我が国が武力攻撃を受けた場合に備えた「専守防衛」の実力組織であり、海外で武力行使することはないとしてきたのです。

○「専守防衛」から逸脱した自衛隊の現状
 社民党は、社会党時代の1994年、「自衛のための必要最小限度の実力組織である自衛隊は憲法の枠内である」と規定しました。しかし、その後、新ガイドライン以降、憲法第9条の理念に反する立法(周辺事態法、テロ対策特措法、PKO法の改正、イラク特措法、有事関連法制など)が積み重ねられ、自衛隊の活動領域や装備の増強が「専守防衛」の範囲を大きく超えて拡大しています。こうした状況を勘案し、2006年の「社会民主党宣言」では、「現状、明らかに違憲状態にある自衛隊は縮小を図り、国境警備・災害救助・国際協力などの任務別組織に改編・解消して非武装の日本を目指」すとしています。

○「戦争法」で憲法の枠を大きく超える存在に
 「戦争法」によって集団的自衛権の行使を解禁し、海外での武力行使を前提とすることとなった現在の自衛隊は、憲法の枠をさらに大きく超える存在となっており、とうてい認めることはできません。集団的自衛権行使を容認する閣議決定の撤回と「戦争法」の廃止を強く求めています。

○「平和創造基本法」(仮称)を制定し自衛隊の縮小を
 社民党は、憲法9条を具現化し、自衛隊の活動範囲や理念などを定めた「平和創造基本法」(仮称)を制定し、その中に「戦力」に当たらない「専守防衛」の自衛隊も位置づけ、集団的自衛権の不行使の明記や、安全保障の基本方針として「専守防衛」や外交努力による紛争解決などを掲げ、当面、領海・領空・領土を越えて戦闘する能力・装備を削減し改編・縮小を目指します。

(4)日本の安全保障確立のための外交努力を
○平和外交と非軍事・文民・民生を基本とする積極的な国際貢献
 憲法前文は、「恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚」し、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意」したとうたっています。安全保障の要諦は、外交努力です。暴力からは、平和も繁栄も生まれません。外交の失敗が戦争につながるのであって、平和憲法を持つ日本こそ、朝鮮半島の緊張緩和のための非軍事的解決に積極的な役割を果たし、戦争の危機を回避する努力が求められています。国連憲章の精神、憲法の前文と9条を指針にした平和外交と、「人間の安全保障」の観点に立ち、非軍事・文民・民生を基本とする積極的な国際貢献で、世界の人々とともに生きる日本を目指すべきです。

○「北東アジア総合安全保障機構」と「北東アジア非核地帯化共同宣言」
 社民党は、2001年に、北東アジアに信頼と協調による多国間の総合安全保障機構(「北東アジア総合安全保障機構」)を創設(当面、日本、韓国、北朝鮮、中国、モンゴル、ロシア、カナダ、アメリカを想定)し、「国際紛争が生じた場合、武力不行使・平和的な話し合いでの解決を前提とする」ことを提起しました。あわせて当面、日本、韓国、北朝鮮、モンゴルの間で、「北東アジア非核地帯化共同宣言」を行い、「北東アジア非核地帯条約」の締結による非核地帯を設置できるよう提起しています。その後、野党外交で中国、ロシア、韓国、モンゴルに呼びかけ、大筋賛同を得て、2005年の「6か国共同声明」にこの内容が活かされてきました。韓国の文在寅大統領も、北東アジアの平和定着や交流・協力を訴える、多国間安全保障協力を中心とした北東アジア構想を提唱し、対話を呼びかけています。

○挑発と軍事力の応酬では解決しない
 現在、朝鮮半島をめぐる情勢が緊迫しています。もちろん、北朝鮮が核実験や弾道ミサイルの発射を繰り返し、アジアに大きな緊張をもたらしていることについて、社民党としても厳しく批判しています。他方、安倍首相が、アメリカの軍事行動を容認し、共同訓練を実施するなど、米国に追随し危機を煽っていることは、極めて危険なことと言わざるをえません。挑発に対し挑発、軍事力に対し軍事力では何も解決しません。

○2005年の「6か国共同声明」と2002年の「日朝平壌宣言」を活かす
 北朝鮮の行動の背景には、アメリカが北朝鮮を正当な国家と認めず、逆に北朝鮮敵視政策をとって「悪の枢軸」と位置づけ、核兵器を含む膨大な軍事力で包囲し、対北朝鮮制裁と圧迫を強めてきたことがあります。核実験やミサイル開発の背景には、米朝間に国交が正常化されておらず、米国に対抗しなければ、イラクのように一方的に攻撃され、北朝鮮の体制の維持が困難になるとの危機感が根底にあります。1950年6月に朝鮮戦争が始まって以来、米国と北朝鮮との戦争状態は終わっていません。いま求められることは、米朝会談を実現し、2005年の「6か国共同声明」に立ち戻り、停戦(休戦)協定を米朝不戦協定へ切り替え、国交正常化、経済援助の実施と核・ミサイルの放棄を一体で取り組む道筋を目指すことです。「平和的な方法による朝鮮半島の検証可能な非核化」と「北東アジア地域の永続的な平和と安定のための共同の努力」を約束している、2005年の「6か国共同声明」に北朝鮮が立ち戻るよう、アメリカはもとより中国、ロシア、韓国への働きかけを強め、相互の主権尊重、平和共存、国交正常化の措置をとるとした6か国の合意を前に進めるようにするべきです。あわせて、2002年の「日朝平壌宣言」等に基づく懸案事項の解決のために、粘り強い交渉と対話を行うべきです。社民党としても、あらゆる努力を惜しまず後押ししていきます。

2.幼児教育から高等教育までの無償化について

○無償化の法制化と財源を手当すれば可能
 憲法26条は「すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する」と教育権を保障しており、高等教育の無償化を妨げてはいません。26条を活かし、無償化の法制化と財源を手当すれば可能です。憲法に規定がないから教育の無償化ができないというのはとんでもないこじつけです。憲法を変える必要は全くありません。

○安倍政権に教育無償化を語る資格なし
 3年連続で教育予算を削ってきたのは安倍政権であり、かつて社民党も参画した連立政権下での高校授業料無償化に対し、「バラマキ」と批判し、所得制限をかけたのは自民党です。安倍政権に教育の無償化を語る資格はありません。

○国際的にも義務の履行を
 憲法に高等教育の無償化の義務の規定がないので、憲法を変えて義務化すると言いますが、日本は、中・高等教育への「無償教育の漸進的導入」を定めた国連人権規約A規約(13条2項b、c)の留保を外しており、高校・大学までの段階的な無償化を行う国際的な義務が生じています。「締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする」とする憲法98条2項からも教育の無償化の実現が迫られます。

3.大規模災害時に国会議員の任期を延長する緊急事態条項の創設について

○災害対応に大事なのは、事前の準備と現場の裁量
 自民党の憲法改正草案のように、大規模災害時等に対応するため、緊急事態条項が必要だという考えがあります。もちろん大規模災害や原発事故などの場合、国民の生命や財産等の保護が国家の最大の義務であり、政治の責任であることは当然です。しかし、東日本大震災では、緊急事態条項や基本法がなかったために、初動態勢が遅れ被災者を救援できなかったり、原発事故への対応が遅れたりしたのではありません。事態発生時に、スピード感を持って政策を決断し推進できるよう、統治能力や危機管理能力を磨く必要はありますが、災害対処に必要なのは、災害対策関連法の整備と事前の備え、現場の市町村の裁量を認めることであり、政府への権限集中ではありません。

○独裁につながる国家緊急権
 国家緊急権は、戦争や内乱、大規模な自然災害等で、平時の統治機構では対処できない非常事態において、国家の存立を維持するために、立憲的な憲法秩序である人権保障と権力分立を一時停止して非常処置をとる権限です。自民党の憲法改正草案では、国会の事後承認が必要であるとはいえ、政府が、自ら緊急事態を認定すれば、法律によらず政令(緊急政令)で国民の権利を制限し義務を課すことができ、国会の議決なく予算を使えるように規定され、自治体の長への指示権も付与されています。三権分立や地方自治を否定し、基本的人権を大きく制約する根拠となり、また、緊急事態の範囲も「我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める」とあり、非常に広いものです。アドルフ・ヒトラーは、当時もっとも先進的で民主的と言われたワイマール憲法下のドイツ共和国において、憲法48条の緊急事態条項に基づく大統領緊急令の濫用に乗じ、1933年に無制限の立法権を授権した全権委任法(「民族および国家の危難を除去するための法律」、授権法)を制定し、独裁的権限を手中に収めました。憲法を改正して国家緊急権に基づく緊急事態条項を盛り込めば、ナチスの大統領緊急令や全権委任法のように機能し、首相独裁につながることが懸念されます。強大な権限を内閣に集中させ、平時よりも国民の人権を強く制約するために改憲が必要だとの考えには賛成できません。

○大規模災害等の非常事態にこそ求められる基本的人権の具体化
 逆に、日本国憲法は、国民主権、基本的人権の尊重、平和主義の理念に照らし、そもそも非常事態を生ぜしめないように不断の努力をすることを規範として求めています。権力者による濫用を排除し、民主主義を徹底するために、あえて緊急事態条項を設けなかったといえます。そして第99条の憲法尊重擁護義務を課せられている者に、大規模災害等の非常事態にこそ、憲法の生存権をはじめとする基本的人権の具体化を求めているものと考えられます。

○国会議員の任期の特例等は「お試し改憲」そのもの
 大規模災害等の非常事態に、国会議員が不在となったり、選挙ができなくなったりすると、法律を作ったり予算を組んだりできず迅速に対応できないことなどを名目に、「衆議院は解散されないものとし、両議院の議員の任期及びその選挙期日の特例を設けることができる」として、国会議員の任期や選挙期日の特例に絞った緊急事態条項を設けてはどうかという考え方があります。しかしこれは、自民党憲法改正草案のような緊急事態条項新設の危険性への批判をかわすごまかしであり、「災害」を持ち出し、「手続きの不備」を理由に、マイナーな条項に絞ることにより、とにかく一度可能なところから改憲を実現したいという「お試し改憲」そのものです。

○任期延長は、国民の選挙の機会の剥奪につながる
 日本国憲法は、大日本帝国憲法とは異なり、衆議院議員の任期を4年、参議院議員の任期を6年(3年ごとに議員の半数を改選する)と憲法の条文で規定しています(45条、46条)。主権が国民に存することを宣言した日本国憲法は、前文で、「日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動」することをうたい、「国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する」としており、国権の最高機関である国会が国民の代表として存在することの重要性を強調しています。国民主権の権利行使の手段が選挙であり、一定の期間ごとにそのときどきの民意を政治に反映させることを求めており、ときの権力者の思惑で簡単に動かせないよう、任期を法律ではなく憲法に規定をしたのです。任期の延長を認めた場合、その間は国民から選挙の機会を奪い、主権の行使ができなくなり、「緊急事態」であることの妥当性や任期延長の必要性、期間等の判断を政府に白紙委任してしまうことになってしまいます。

〇戦時体制の推進に任期延長が寄与した教訓
 1937年4月30日に行われた第20回総選挙で選ばれた衆議院議員の任期満了が目前に迫った1941年2月、現任の衆議院議員に限って4年の任期を1年間延長することを定めた「衆議院議員任期延長ニ関スル法律」が制定されました。この任期延長によって選挙が行われなかったことから、国民が戦争に対する民意を示すことなく挙国一致体制が作り出され、同年12月の真珠湾攻撃に至り、太平洋戦争に突入していきました。任期延長が戦時体制の推進に寄与することになったことの教訓からも、国会議員の任期の特例等は問題があります。

○緊急集会等で対応可能
 日本国憲法は、54条2項で「衆議院が解散されたときは、参議院は、同時に閉会となる。但し、内閣は、国に緊急の必要があるときは、参議院の緊急集会を求めることができる」として、衆議院の解散時に、参議院の緊急集会の仕組みを設けています。緊急集会の規定は、GHQとの交渉の中で、不測の災害に対応する措置として日本側の要求で盛り込まれたとの指摘があります。衆議院の解散時も任期切れの際も、衆議院議員が不在の改選期間であることには代わりはなく、大規模災害時においても緊急集会の仕組みを活用すべきです。そして、「緊急集会において採られた措置は、臨時のものであつて、次の国会開会の後十日以内に、衆議院の同意がない場合には、その効力を失ふ」(54条3項)とされており、災害などの事態の回復後に衆議院の同意を得るようにすれば被災地の民意も反映できます。また、必要な措置については、憲法73条6号の法律による政令への罰則委任を活用し、災害対策基本法の厳格な要件の下で、内閣は罰則付きの緊急政令を制定できます。

○繰延投票を活用すべき
 大規模災害で選挙実施が困難な地域が発生した場合は、被災地以外の選挙区では予定どおり選挙を行い、被災地では、公職選挙法57条の繰延投票で対処し、別の期日に実施し、議員不在の状況を速やかに回復すればよいだけです。比例代表の議員が確定しなくとも、定足数である3分の1を満たせば、衆議院は活動することができます。したがって、憲法改正による議員の任期延長等の特例は必要ありません。

4.参議院の選挙区の合区の解消について

○憲法を改正して「合区」を解消?
 2016年の参議院選挙から、「一票の較差」是正のために、人口の少ない島根県と鳥取県、高知県と徳島県がそれぞれ「合区」され、都道府県単位の選挙区という従来の選挙区割りがはじめて変更されました。しかし、この「合区」に対しては、4県の住民を中心に、批判や不満が強く出されていることから、これに便乗して、憲法を改正して「合区」を解消しようという動きがあります。

○「合区」自体は問題あり
 もちろん、「合区」に際しては、@人口の少ない県から議員を選出できない、A歴史的文化的な背景を考慮していない、B人口変動によって更なる組み換えが必至であり、制度としての安定性に欠ける、ゲリマンダー的要素(人為的・恣意的な区割り)への懸念が拭いきれません。また、「合区」された2つの県において、候補者を選出できる県とできない県を生じさせることは、都道府県選挙区を歪めることにつながりかねません。

○違憲状態の解消を求める最高裁判決
 最高裁は、2014年11月26日、2013年7月21日に施行された第23回参議院通常選挙(選挙区選挙)について、「選挙区間の投票価値の不均衡は、…違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあった」とする「違憲状態」判決を行いました。そして「…投票価値の平等の要請や参議院の役割等に照らせば、従来の改正のように単に一部の選挙区の定数を増減するにとどまらず、都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式をしかるべき形で改めるなどの具体的な改正案の検討と集約が着実に進められ、できるだけ速やかに、現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置によって違憲の問題が生ずる上記の不平等状態が解消される必要がある」と指摘していたのです。

○「合区」の導入を押し切ったのは自民党
 最高裁の判決を受け、参議院選挙制度の各党協議が行われてきましたが、他の政党の反対を押し切り、無理矢理「合区」の導入を押し切ったのは自民党です。しかも、「一票の較差」是正のためといいながら、この「合区」を含む定数見直しでもなお最大3倍程度の較差が残り、違憲状態が解消されたわけではありません。

○「一票の較差」の是正と民意の反映の両立
 「一票の較差」問題の本質は、憲法が求める投票価値の平等をいかに実現するか、という問題です。「一票の較差」の是正と同時に、民意を的確に議席数に反映させる選挙制度改革が必要であり、この2点を両立させるための選挙制度の改革を検討すべきです。「合区」の問題を解消するため、投票価値の平等という憲法の要請に応えられなくなっても、最高裁から違憲と言われないよう、憲法の方を変えてしまえというのは、余りに乱暴です。

○選挙区選挙を11ブロック単位に
 各選挙区間の「一票の較差」を2倍未満に是正するためには、従来の都道府県単位を維持しながら総定数を増やすか、選挙区の単位をブロック単位に改める必要があります。社民党は、「都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式をしかるべき形で改める」べきとの最高裁の判決の考え方に沿い、選挙区選挙を11ブロック単位に改める案を提案してきました。

○公職選挙法改正で可能であり、憲法改正の必要なし
 憲法47条は、「選挙区に関しては法律でこれを定める」としています。選挙制度の改正は、公職選挙法第14条の改正で可能であり、憲法改正の必要はありません。

5.憲法の理念や条項を活かす「活憲」運動を進めよう

○憲法の理念や条項に反するアベ政治の暴走
 憲法とは、主権者たる国民が、政治権力の専制支配を防止し、個人の自由や権利を保障させるために政治権力を縛るためのものです。しかしアベ政治の暴走そのものにみられるように、現実の政治は、平和と暮らしを破壊する憲法の理念や憲法が保障している人権が守られ活かされているとはいえない現状にあります。
・集団的自衛権行使を容認する「戦争法」は、憲法前文の平和的生存権及び9条に明確に違反します。
・「一億総監視社会」化につながる「共謀罪」は、憲法19条の「思想及び良心の自由」、21条の「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由」、31条の「罪刑法定主義」等に抵触します。
・憲法13条は、「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」としています。しかし、原発は、住民の生命や利益に関わる人格権が侵害される具体的な危険があり、13条の「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」を真っ向から否定し、25条の生存権をも侵害します。
・憲法14条は「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」として、法の下の平等をうたっていますが、男女間や正規・非正規労働者の賃金や待遇の格差が存在します。
・憲法24条は、婚姻の自由と夫婦の権利の同等をうたい、2項で家族に関する立法は、「個人の尊厳と両性の本質的平等」に基づくべきであると定めています。しかし、女性差別は未だになくならず、選択的夫婦別姓も実現できていません。
・憲法25条は、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」として生存権を保障していますが、生活保護費の削減、年金カット、医療や介護の負担増などで空文化しているといわざるを得ません。また、働く者の4割、約2000万人が低賃金の非正規労働者であり、「過労死」を生み出す長時間過密労働が蔓延しています。
・憲法26条は、「すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する」と教育権を保障していますが、高額の授業料や不十分な奨学金制度など、貧富や経済的格差の拡大で有名無実化しています。
・憲法28条の「勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利」は、公務労働者には保障されていません。
・戦争放棄を宣言した日本国憲法は、地域に民主主義と自治を根付かせることによって、二度と戦争は起こさせないとした決意により、官治・中央集権の旧憲法とは異なり、第8章に「地方自治」の章を設け、地方自治を明確に位置づけ、保障するものとなりましたが、沖縄では民意を押しつぶすように辺野古の新基地建設が強行されています。

○「活憲」運動を進め、改憲の流れを押し戻そう
 憲法13条の「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」は、「立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」とされ、憲法12条は「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない」としています。今ほど憲法の理念や条文が、暮らしや政治に活かされるよう努力することが求められているときはありません。憲法が空文化し空洞化している現実を、憲法の理念や条文に沿って改革していく「活憲」運動を進め、改憲や条文の有名無実化の流れを押し戻していきましょう。

以上

 



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