声明・談話

1999/4/7

衆議院防衛指針特別委員会 参考人陳述
(日本乗員組合連絡会議議長 川本和弘氏)

○山崎委員長 次に川本参考人にお願いいたします。

○川本参考人 まず、本日、この場を私に与えてくださいましたこと、大変感謝いたしております。

私は、一番最初の紹介で簡単に触れていただきましたとおり、日本乗員組合連絡会議で議長を務めさせていただいております。私たちの団体は、私のこ の後の意見の理解を得るためにごく簡単に説明させていただきますが、日本の民間航空で働く機長、副操縦士、航空機関士五千二百名、日本の民間航空のパイ ロットのほぼ九割以上を組織する団体でございます。

私の前に、お三人の参考人の方が非常に高度な、政治的な問題について大所高所から意見を述べられていたようでございますが、私はそういうのは専門 外でございまして、私の所属する団体の中の討論の経緯について、ぜひ皆様、国会の諸先生方に御理解いただきたい。なお、逆に、極めて諸先生方にとっても身 近な問題ではないかと考えております。

現在、このガイドラインの問題について、政治の最も大きな議題になっているわけでございますが、私ども民間航空に働く者にとっては極めて関心の高 い事項であるし、また、このガイドラインと民間航空の関係について極めて強い危惧を持っているということで、時間の許す限り、三点ほど私の意見を述べさせ ていただきたいと思っております。

まず第一点目でございますが、私たち、常日ごろ、ごく普通の感覚で、どこの国へでも民間の旅客機に乗って出張なり観光なりに行っているわけです が、国家という枠組みの中でそれが余りにも日常的に行われているのでどなたも不思議には思わないんですが、これは極めて重要な枠組みの中で行われていると いうふうに考えていただきたいと思っております。その枠組みというのは、国連の範囲の中の国際民間航空機構、その機構を維持する国際民間航空条約、一般的 にはシカゴ条約と言われておりますが、その国際民間航空条約並びにICAOという民間航空機構が機能しているから、そういう利便性を日常的に我々は利用し てその利益を享受している。このガイドラインが発動されるような事態に立ち至った場合には、その枠組みに対して極めて私どもは心配をしております。

この条約、シカゴ条約の前文には、お手元に三部ほど資料がございますが、全部読む時間はございませんが、まず、国際民間航空の将来の発達は各国の 友好と理解を創造し、以下云々と。それで、国際民間航空の乱用は、一般的安全に対する脅威となることがあるので、また、摩擦を避け、協力を促進することが 望ましい、そういう目的のために各国政府はこの条約を締結するんだというふうに書かれております。これがいわゆるシカゴ条約の精神であると私たちは考えて おりますし、全体を通じて流れている考え方と。

その第三条には、民間航空機とは何なのか、国の航空機とは何なのか。国の航空機とは、これは当然でございますが、軍、警察、税関等の飛行機。した がって、この国際民間航空条約の権利なり責任なり保護なりを受けられるのは民間航空機に限るんだということが、この条約の中ではっきりとうたわれておりま す。したがって、国の航空機というのは、この国際的な民間航空のシステムの中では保護を受けられないということになります。

第四条は、各締約国は、この条約と両立しない目的のため民間航空を使用しないことに同意する、そういうふうにもうたっております。なお、日本国の 航空法では、第一条、その目的の中で、民間航空条約の精神にのっとってこの法律を制定するというふうになっているわけでございます。

したがいまして、ガイドラインが発動されるような事態に万が一立ち至った場合には、それらの前提がすべて崩れてしまい、私たち直接その場に働く者にとっては、極めて大きな危惧を抱かざるを得ないというふうに考えております。

それから、第二点目でございますが、周辺事態法の中で、いわゆる日本が行う米軍に対する支援について規定がございます。先生方も当然御存じの第三 条関連、それから第九条関連でございますが、私たち民間航空の場に働く者もこれとは無縁ではないというよりも、極めて密接に関連している。第九条第二項で は、「国以外の者に対し、必要な協力を依頼することができる。」というふうにされております。この委員会の中のやりとり等を私たちは新聞やテレビ、雑誌等 を通じて非常に注意深く見守っておりますが、これはあくまでも依頼であって強制ではないんだというふうに一般にはとらえられているようでございますが、果 たして現実はそのような言葉どおりに動くのかという危惧が非常に強いわけでございます。

いわゆる、国から企業に対して依頼という形で要請が行く。企業は、許認可権が非常に多い航空の中では、国に対してそれをお断りするというのはかな り至難のわざではないかなというふうに考えております。具体的には、ある航空会社の団体交渉の中では社長が、それはこたえるんだ、国の要請にこたえるとい うふうに明言をされております。

そういうような中で、従業員にとって、会社からの業務命令に逆らうことは極めて難しい。それは私たちが生活をかけて拒否をするのか、やむを得ず参加するのかという二者択一を迫られる場合が極めて具体的にあらわれてくるのではないかという危惧を私どもは持っております。

なおかつ、その協力の中身については、法律の中では、自衛隊の行う協力については別表で表示されているようでございますが、民間の協力については 明文がないといいますか・・・。それで、私たちとして考えられる民間の航空関係の協力というのは幾つかあるのですが、代表的なものを挙げさせていただけれ ば、まず米軍による空港の使用、それから、その空港での人員や物資の積みおろし、保管及びその場所の提供、それから、私たち民間航空機による人員なり物資 の輸送、これは九七年、日本のある航空会社はアメリカの海兵隊の人間を沖縄から横田に実際に運んでおります。これについては、私ども民間航空の中では非常 に大きな問題になって、団体交渉等を通じて会社に中止を依頼し、帰りの便については会社が中止したという経緯もございます。それから、航空機の整備、燃料 等の補給、傷病者の輸送等々たくさんあります。それから付随的に、これらを円滑に遂行するために、航空管制や空域の優先的な使用も当然発生してくるのでは ないかと考えております。

こういう事態に立ち至った場合に、果たして民間航空にとってどういう影響があるのだろうか。

今の日本の経済活動の中で、民間航空抜きには考えられない、人の流れの大動脈の一つを私たちは担っているという自負がござます。

そういうような影響の中では、民間航空の流れが極めて制限を受ける、場合によっては異常接近なり空中衝突なりの危険性が非常に多くなるのではない かと考えております。現在でも、私どもは日本の何ヵ所かでは軍用機と民間機の異常接近が日常茶飯事的に発生しておりまして、それらについて、昨年は運輸省 なり米軍にお話をさせていただいた経緯もございます。

また、日本国内にとどまらず、日本からヨーロッパ、朝鮮半島、中国、アジアは、日本海周辺空域を飛行しなければ飛べないわけでございますが万が一 その周辺の空域なり海域が紛争事態になった場合には、民間航空の安全は根底から覆ってしまうのではないかと考えております。一機の飛行機に乗り込んでいる 乗客、乗員は、これは下世話な言葉で言えば一蓮託生でございます。どんな高官でもまたはそうじゃない人でも運命共同体というふうに私どもは考えておりま す。したがって、私たち民間航空に働く機長の責務は、まず第一に最優先させるのが、御搭乗していただいている乗客の皆様の生命の安全を確保することが私た ちの第一義の任務だと考えております。

なお、それに付随して発生する問題として、万が一紛争が発生した場合に、私たちにとって最も脅威となるのがテロでございます。これは具体例が何件 もございます。一つ一つ説明するにはもう余り時間がございませんが、このテロを防ぐのは、相手の意思がかたければほとんど不可能と言っていいと思います。 なぜかと申しますと、日本の民間航空機、これはアフリカの一部を除いて毎日世界各国を飛び回っております。日本の中で幾らセキュリティーを厳重にしても防 ぐことはできません。これは、私どもは断言をする自信がございます。

具体例といたしまして、一九八七年、北朝鮮が大韓航空機に爆薬を仕掛けて、アンダマン海上空で、乗客二百名程度だったですか、ちょっと今数字は覚 えておりませんが、お亡くなりになっておりますが、これはソウル・オリンピックを妨害するための工作であったというふうに事故調査報告では述べられており ます。

あともう一件。その翌年でございますが、一九八八年、イギリスのスコットランド上空でパンナム機が爆破されております。パンナムは当時経済的に困 難であったんですが、この事件を契機に、一挙に会社の消滅という道に走ってしまったというふうにも言われておりますが、当初、この事件は、その飛行機に米 国の高官が乗っていらしたんですが、それをねらったのではないかというふうに言われていたんですが、後々の事故調査によりまして明らかになったのは、米軍 のトリポリ爆撃に対するリビアの報復テロであったというふうに言われております。このときの犯人は、十年たっても引き渡しを受けませんでしたが、つい二日 か三日前、オランダに引き渡されたということでございますが、万が一リビアの国家テロだということならば、引き渡された犯人がいてもこの事件の真相が解明 されるようなことはないのではないかと私は危惧いたしております。

最後でございますが、そういう紛争当事国にならなくても、イラン・イラク戦争のときに、ホルムズ海峡で米軍の誤射によってイランの航空機が撃墜さ れてしまいました。そのときに十六名の乗組員を含む二百九十名の乗客の方は全員お亡くなりになったというような苦い苦い教訓、悲劇がたくさんございます。

私どもは、そういう観点から、大所高所の論理ではないかもしれませんが、民間航空に働く現場の人間といたしまして、ガイドラインの法案については大変危惧をいたしております。

先生方のお手元に、二部つづりの資料がございますが、一番最後に「ガイドラインに対する航空労働者の見解」という私どものアピールがございますが、ぜひ後ほど御一読いただきたいと考えております。

大変ありがとうございました。(拍手)