日朝問題――社民党の考え方

 朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)による日本人拉致事件の衝撃的な事実が初めて明らかにされた日朝首脳会談から四ヵ月が過ぎました。また、昨年十月に報道された核開発問題は、その後、監視カメラの封印からIAEA(国際原子力機関)の査察官の国外退去、NPT(核拡散防止条約)からの脱退表明にまで至り、事態は深刻の度合いを増しています。北東アジア地域の緊張を激化させかねない憂慮すべき問題です。

 「再び戦火を交えてはならない」――。平和憲法を守り、平和国家としての日本をつくるため、私たちの前身である日本社会党は努力し続けてまいりました。近隣の国々と体制の違いを超えて交流の機会を持ち、国交を結ぶことが大事だと野党外交を展開してきました。昨年三十周年を迎えた中国との国交回復も、当時の社会党の努力があってできたことだと言えるでしょう。北朝鮮との国交回復に向けた党間交流も一九六〇年代から続けてきました。今、それらの努力を土台にして再開された日朝国交正常化交渉が「拉致事件と核開発」で最も難しい局面に立たされています。

 今こそ近隣諸国と力を合わせ、平和的な解決の道を求めて戦争の危機を抑止しなければなりません。社民党は、過去を検証しながら日朝国交正常化と北東アジア地域の平和と安定のために努力します。 


「平壌宣言」に基づく交渉再開に期待
北東アジア地域の平和と安定へ努力

 昨年の九月十七日。平壌での小泉総理と金正日総書記による日朝首脳会談を、私たちは真剣に見守っていました。近隣にあって戦後、半世紀以上も国交がない北朝鮮と国交正常化交渉が再開されることは、北東アジアの平和が実現する大きな一歩になると注目し、期待していました。

 事実、両首脳が署名した『平壌宣言』には「双方が相互の信頼関係に基づき、国交正常化に至る過程においても、日朝間にある諸問題について誠意をもって取り組む強い決意を表明した」と記されています。私たちは『平壌宣言』に基づいて日朝国交正常化交渉が再開されることを率直に評価しました。

 しかし、この首脳会談の場で拉致事件の事実が明らかにされました。金正日総書記自身が「七〇年代、八〇年代初めまで特殊機関の一部が盲動主義、英雄主義に走ってこういうことを行なってきた」と拉致事件を認め、謝罪を行ないました。また「これらの関連で責任ある人々は処罰をされた。これからは絶対にない。この場で遺憾なことであったことをお詫びしたい。二度と許すことはしない」と説明しました。

〔これまでの取組みの不十分さを反省〕

 追って明かされた事実は、残酷なものでした。「五人生存・八人死亡」という発表がなされ、北朝鮮赤十字から日本政府に拉致被害者のリストが渡されたのです。

 私たちは大きな衝撃を受けました。拉致事件として明かされた事実は、人道上、許すことのできない国家的犯罪行為です。しかも、拉致された後に八人の方々が亡くなったと発表されました。その後の北朝鮮側による状況説明は、不十分で不審な点もあり、納得できるようなものではありません。ただ、拉致事件の事実は重く、あまりにも酷いものでした。

 私たちは、人権の党として少数で弱い立場の人々の声に耳を傾け、差別や不当な迫害を許さない立場を党の原点としています。だからこそ拉致事件被害者と、そのご家族の声を、もっと真正面から受け止める努力を重ねるべきでした。その取り組みは誠に不十分だったことを悔いるとともに、被害者・ご家族に対し、お詫び申し上げます。

拉致事件の解明に全力を尽くしたい

 十月十日には朝鮮労働党に対し、社民党常任幹事会は「拉致事件への抗議と真相解明を求める書簡」を送りました。

 『党間交流は、相互信頼があってこそ成立します。一九九七年以降、わが党が訪朝団として参加したいくたびかの会談の場で、たびたび拉致問題をめぐってのやりとりがありました。これまで貴党は、私たちおよび日本の訪朝団に対して「拉致の事実はない」と言明されてきました。

 しかし、首脳会談の席上で金正日国防委員長自身が認めた「拉致事件」の事実に、私たちは衝撃と強い憤りを持ちました。今回、明らかになった拉致事件は信じがたいものであり、許しがたい犯罪行為です。私たちは厳重に抗議するものです。

 私たちは、拉致事件の全ぼうと詳細を明らかにされることを望みます。日朝関係改善の重要性にかんがみ、真摯(し)に受け止めていただくよう要請します』。

 残念ながら真相解明を求めた私たちの書簡に対し、進展はありませんでした。十一月下旬、社民党は党間交流を凍結することを確認し「朝鮮労働党から拉致事件と核問題での誠実な対応がなされない限り、党間交流は凍結です」と、土井党首が十一月二十九日付けの『朝日新聞』のインタビューで発表しています。

 さらに、十二月五日の常任幹事会において朝鮮労働党との党間交流の凍結を決定しました。同時に「核開発の再開」を金正日政権が認めたことは国際合意に背を向けた行為であり、『平壌宣言』を順守して直ちに核開発を停止し、関連施設と物資の廃棄・完全撤去を要求することを明らかにしました。

 そして、日朝国交正常化交渉の中で拉致事件の真相が一日も早く解明され、日本に帰国した拉致被害者と家族との再会が早期に実現することに党として全力を尽くしたいという決意も確認しました。

 かつての社会党が一九六〇年代から八〇年代まで担ってきたのは野党外交です。日中国交回復の最初の扉も、半世紀前の社会党代表団の政府の圧力に屈しない熱意によって開かれたのです。一九五二年に戦後初めて北京訪問を行なった帆足計衆議院議員らの社会党議員を含めた民間外交の努力が二十年後に実を結びます。その結果が今、日中関係に大きく反映されています。

〔北朝鮮の言いなりというのは一方的〕

 北朝鮮との間には多くの事件や交渉がありました。それはまさしく国交がなく、冷戦下の困難な状況の下で取り組まなければならない性格のものでした。北朝鮮の言いなりだった、というのは一方的な批判です。毅然として深刻な事態を前に交渉し、意思を貫いて事件解決を引き寄せた先達の努力もあります。

 『平壌宣言』を双方が尊重し、対話を開始するという出発点に立った途端に拉致事件の告白が行なわれたのは事実です。予想外の衝撃的な事態が起きたことを外交交渉の場では、冷静にとらえなければなりません。粘り強く交渉を重ね、対話を続ける以外に進展はありません。

 社民党は、日朝の国交正常化へ向けた交渉が進むことによって初めて拉致問題の真相究明と解決があると考えています。そうした手法が、北朝鮮に妥協したということにはなりません。『平壌宣言』は、日朝首脳が双方で確認した国際約束です。この事項を一つひとつ辛抱強く履行させていくという外交を実現させるために、あらゆる努力を惜しまず後押しをするべきではないでしょうか。

〔在日朝鮮人の迫害や差別に強い懸念〕

 今、拉致された五人の方々が帰国され、家族も一緒に日本で暮らしたいと切に願っておられます。この願いをまずは実現させなければならないと思います。

 しかし、現在、政府が取っている方針で、この願いは実現するのでしょうか。日朝首脳会談では、日朝間に存在するさまざまな懸案事項を包括的に、交渉の中で真しに討議するということがうたわれています。懸案事項とは拉致問題、核開発問題、過去の清算問題などです。いずれもが、この北東アジア地域の平和的環境醸成にとって重要な問題です。

 こうした問題を包括的に話し合い、解決を目指すとした首相の判断を私たちは評価しました。現在、拉致事件は、すでに交渉さえ難しく暗礁に乗り上げています。人道上、この問題の一日も早い解決を願わない国民はいません。そのための交渉の糸を、すべて断ち切ってしまっては解決の展望は見いだせません。

 また、党として近隣国であるロシア、中国、そして、韓国にも対話を求め、英国のブレア首相の労働党やドイツのシュレーダー首相の社民党も加盟している社会主義インターでも課題として取り上げ、解決に向けて努力していきます。また、核開発問題では一九九四年の米朝の枠組み合意を踏まえ、KEDO(朝鮮半島エネルギー機構)の運営についても日本政府が韓国と協力し、アメリカとの協議を冷静に行なうように要求していきます。

 この間、在日朝鮮人への迫害や差別、侮辱的な言動が目立ち、暴力事件さえ起きていることに強い懸念を覚えます。歴史を公然と歪曲して「日韓併合は正しかった」などと主張し、強制連行はなかったと叫ぶような人々が一気に勢いづいています。『偏狭なナショナリズム』が台頭している危険を私たちは強く感じています。

〔軍隊を動かす事態許してはならない〕

 一九一〇年から三十六年間にわたる植民地支配を直視しなければなりません。創氏改名をもって朝鮮名を奪い、皇民化教育によって五族協和のかけ声の下に戦争に総動員してきたこと、正確な統計がないほどに多数の朝鮮人を強制連行したことは歴史的な事実です。旧帝国軍隊に軍人・軍属として従軍し、BC級戦犯として捕らわれていた人たちに、今だに政府は補償を認めようとしていません。戦病死した人々にも何らの手も差し伸べていません。「何度謝ったらいいのか」と片づける人々は、過去に植民地支配をしたことさえも正当化しようとしています。

 こうした歴史認識がナショナリズムと結びつき、そして、軍隊を動かすような事態を決して許してはなりません。

 ワールドカップ準決勝戦で日本の多くの人々が韓国チームを応援した心意気は、国境や民族、言語を超えて連帯する二十一世紀の可能性を感じさせました。在日コリアンが一体となって熱く応援する光景も見られました。何としても和解と協調の時代の扇を開かなければなりません。北東アジアの平和と安定に向けて今こそ社民党は、しっかりと発言し、行動する時だと考えています。

 平和への強く太い意志を込めて。

(総合企画室)