イラク戦争に関する論点整理（第２版）

２００３年４月１日/社民党外交防衛部会

イラク戦争に関する論点整理（第２版）

○ 米英は直ちに攻撃を中止せよ！　イラク問題は国連の枠組みで解決すべきだ

許せない米英の軍事攻撃

　３月２０日（日本時間）、米英軍はイラクへの軍事攻撃を開始した。戦争を急ぐ米・英両国は、独断で侵略戦争に突入したのである。
　昨年１１月の無条件・無制限の査察を求める国連決議（１４４１号）をイラクが受け入れ、５年ぶりに査察が再開され、イラクは渋々ながらも協力を行ないつつあった。査察が着実にすすみミサイルの破棄などの成果をあげつつあるなかで、安保理の合意も取り付けないまま、武力行使に踏み切ったことは、二重三重の意味で断じて認めることのできない蛮行である。

　そもそも、ブッシュ政権は「アメリカが気に入らない『ならずもの国家』は先制攻撃で倒す」と宣言してきた。こうした考え方は完全に国際法への違反である。第２次世界大戦の反省から生まれた国連は、「国家主権の尊重」と「自衛権行使ができるのは武力攻撃が発生した時で、しかも国連が必要な措置をとるまでの間」（国連憲章５１条）に限ると定めているのである。
　超大国の乱暴な論理を許すならば、２１世紀の国際秩序は「法の支配」から「力の支配」へと逆戻りしてしまいかねない。ましてや、ブッシュ政権の真の狙いが、石油利権の確保や中東への影響力拡大、あるいは大統領再選戦略の一環だとすれば、国際社会の原則や道義においてなんの正当性もないのである。

　もちろん、かつてイランや自国民（クルド人）を化学兵器で殺傷した前歴をもつフセイン独裁体制を弁護する余地はない。だからといって、「戦争」という手段で政権転覆をはかることが許されるわけではない。湾岸戦争では、アメリカなどの攻撃で生活基盤が破壊されて疫病が蔓延し、劣化ウラン弾の使用やいまも続く経済制裁などで、数十万人もの罪なき子どもや老人、女性たちが命を亡くし病気で苦しんでいるのである。

小泉内閣は戦争支持をやめろ

　こうしたアメリカの戦争に対して、小泉総理は態度をあいまいにしたまま、まともに国民に説明しようとはしなかった。ところが実際にアメリカの攻撃が始まるやいなや、直ちにこれへの支持を表明した。不法な戦争の強行はアメリカ自身にとっても国際的信頼を失い威信を傷つける不幸な事態だ。ブッシュ大統領に対し勇気をもって国際協調を求め、戦争を思いとどまらせることこそ、日本に求められていたはずである。
　北朝鮮の脅威への対応を理由にアメリカを支持する必要性を主張する声もあるが、自らの「安全」を関係のないイラクの人々の命と引き替えるような発想は断じて許されない。むしろ朝鮮半島問題の平和的解決のためにも、アメリカの独走に追従することではなく、国際協調の枠組みを強化することが必要なのである。

　イラク問題はあくまでも国連の枠組みのなかで、平和的に解決すべきである。戦争は多数の人命を奪い、環境を破壊するだけでなく、中東の政治を不安定化させ、世界経済を混乱に陥れかねない。新たなテロを誘発し、「憎悪と報復」の連鎖の世界を生み出すのである。

１、イラク攻撃の問題点

（１）イラクの「脅威」の実態

　イラク・フセイン政権は国連安保理決議を遵守し、大量破壊兵器保有の野望を捨てねばならない。しかしイラク政府は国連による査察を受け入れ、一応の協力の姿勢を示しており、ＵＮＭＯＶＩＣ（国連監視検証査察委員会）とＩＡＥＡ（国際原子力機関）の査察では、イラクが大量破壊兵器を保有しているという明確な証拠は得られていない。エルバラダイＩＡＥＡ事務局長は「イラクが核開発計画を復活した証拠は発見しておらず、数ヵ月後もあればイラクに核兵器開発計画がないことを保証できる」としており、イラクが核兵器を保有している可能性は小さい。生物・化学兵器を保有している疑いは強いが、実態はまだ不明である。米は「国連が保有の証拠を見つけられなくても、廃棄の証拠をイラクが提示できなければ有罪」と主張しているが、無罪を証明できない容疑者が有罪という理屈はあまりにも一方的である。アメリカは、２月５日に安全保障理事会に対して新たな「証拠」を示したが、国際社会を十分に納得させるものではなかった。
　また、ブッシュ政権は９･１１テロの直後からイラク攻撃を念頭において、オサマ・ビン・ラディン氏とフセイン氏を結びつけようと試み続けているが、失敗している。実際、イスラム教指導者を弾圧し殺害してきた世俗主義者のサダム・フセイン氏を原理主義者のビン・ラディン氏は敵視していたとされ、アメリカへの反発以外の共通点はないという見方が一般的だ。

※元国連大量破壊兵器査察官スコット・リッター氏も来日してイラクへの査察の実態を明らかにし、アメリカの攻撃を批判した。
※アメリカが示した「イラクのがニジェールからウランを輸入しようとした」とする証拠文書は、書式が古く、署名者に誤りがあり、署名が偽物であるなど、偽造文書であったことが判明している。（３月２５日）

（２）露骨なダブルスタンダード（二重基準）

　イラクの体制は非民主的であり抑圧的であるかもしれない。しかし非民主的な国は世界中にいくらでも存在しており、これまでアメリカはそんなことには頓着せず、自国の利害によって援助をしてきた。フセイン政権もビン・ラディンのテロ組織もアメリカが対イラン、対ソ連のために援助し育てた鬼っ子なのである。
　大量破壊兵器を保有していることが攻撃の理由ならば、確実に核兵器を保有しているイスラエル、インド、パキスタンや、保有している可能性が高い北朝鮮などの方が、より問題は大きいはずである。イラクの疑惑に対しては証拠もないまま戦争をしかけるのに、ＮＰＴに加盟せず２００発以上の核兵器を保有するとされるイスラエルに膨大な援助を続けるのは露骨な二重基準であり、認めるわけにはいかない。世界最大の大量破壊兵器保有国であるアメリカ自身や、安保理常任理事国５ヵ国は、世界中から大量破壊兵器を廃棄するための条約や機構をつくる先頭にたち、自分から率先して廃棄するべきである。アメリカ自身は「ＮＰＲ（核体制見直し）」などで核兵器の実戦使用に向けた準備をすすめながら、気に入らない国に対してはそれを理由に戦争をしかけるというのはあまりにも不公平である。

※１９６７年、イスラエルの先制攻撃ではじまったの第３次中東戦争で、イスラエルは東エルサレム、ヨルダン川西岸（ヨルダン領）、ゴラン高原（シリア領）、シナイ半島（エジプト領）、ガザ地区を占領した。これに対して占領地からの撤退を求めた国連安保理決議２４２（１９６７年１１月２２日採択）があるが、米・イスラエルはこれを無視している。（アメリカはこれまで７０回以上にわたって拒否権を行使しているがその半分以上がイスラエルに関するものである）

（３）戦争の被害

　戦争で最も傷つくのはいつも罪のない民衆である。特に抵抗力の弱い子どもたちが最も集中的に被害を受ける。死者にしめる軍人と民間人との比率は第１次世界大戦時には９５％対５％であったのが、第２次世界大戦時には５２％対４８％、ベトナム戦争時には実に５％対９５％となっている。戦闘による直接の被害だけではなく、戦争による民間人の苦しみは長期にわたって続く。環境への被害も甚大である。
　９１年の湾岸戦争の際、多国籍軍は軍事目標だけではなく公衆衛生を支える民間基幹施設（推定２３２０億ドル相当）を意図的に破壊した（これは民間人の生存手段の破壊を禁じたジュネーブ条約追加議定書違反である）。浄水システムなど生活インフラが破壊されたため子どもを中心にコレラ、チフス熱などの伝染病や栄養失調による死亡が激増した。これに経済制裁が追い打ちをかけ９１年の最初の８ヵ月間で４万７０００人の子どもが死んだとされる。劣化ウラン弾による健康被害も深刻だ。今回、戦争が起これば４・８万～５０万の死者が出ると推測され、核兵器が使われれば死者が３９０万人に及ぶという試算もある。

※０２年１２月、イラク市民訪問調査団の一員としてイラクを訪問した阿部知子議員、山内惠子議員はイラクの民衆の生活を直接に調査し、劣化ウラン弾等の影響や国連の経済制裁の影響が結局最も弱い部分にしわ寄せされていることを明らかにしてきた。

（４）中東政治の混乱、テロの誘発

　イラクへの軍事攻撃がアラブ諸国の民衆の反米感情を高め、中東の親米政権が不安定化する恐れがある。仮にフセイン政権を打倒できても、アメリカやその同盟国はテロにおびえながら、新政権を長く支えざるを得なくなると考えられる。パレスチナ情勢などそれでなくても緊張が高まっている中東の政治は大混乱となる可能性が高い。米英への反発が広がり、新たなテロの土壌となることも間違いないだろう。

※米英軍の攻撃開始後、エジプトのムバラク大統領は「この戦争はもう１００人のウサマ・ビン・ラディンを生むことになるだろう」と語ったと伝えられている。

（５）世界経済の危機を深め深刻な世界不況を引き起こす

　実際に戦争となれば原油価格は高騰し、株は暴落し、アメリカ経済はのみならず世界経済は深刻な状況に至るとも予想される。そもそもブッシュがイラク攻撃に固執するのは、米経済の不調から国民の目をそらし、大統領に再選するのが狙いではないかともささやかれている。しかし仮に戦争の「熱狂」によって一時的に米国民の目をごまかしたとしても、石油供給への不安、戦費の負担などの要因は世界経済に重くのしかかり深刻な世界不況を引き起こすであろう。９１年の湾岸戦争には約８００億ドルの費用がかかったといわれるが、今回のイラク攻撃では部隊展開だけで９０～１３０億ドル、撤収に５０～７０億ドルの戦費が必要だという試算がある。直接戦闘に月６０～９０億ドル、戦後駐留に月１０～４０億ドルが想定されておりそのコストは膨大だ。日本だけで２兆円近くの戦費分担が期待されているとも言われる。

※３月２４日、ブッシュ大統領はイラク戦争の戦費調達のため総額７４７億ドル（９兆円）規模の補正予算案を議会指導部に提案した。部隊撤退までの期間を６カ月と想定している。内訳は戦費６３０億ドル、イラク復興初期費用と貢献国への支援８０億ドル、国内テロ対策費４０億ドルなど。
※塩川正十郎財務省は参議院予算委員会で「アフガニスタン支援での日本の負担は１２．６％だった。これがひとつの基数になる」と答弁した。山崎拓自民党幹事長はイラク戦後復興費の２割を日本が負担する考えを示した。

２、国際法上の問題点

（１）国連憲章違反、国際人道法体系の破壊する

○原則禁止されている武力行使
　国連加盟国は、憲章第２条によってあらゆる「武力による威嚇又は武力の行使」を原則として禁じられている。武力行使が可能なのは唯一「自衛」のためだけであり、これも（１）国連安全保障理事会が必要な措置をとるまでの間、（２）遅滞なき「報告」の義務をともなって例外的に認められているものである。この他、平和に対する脅威、平和の破壊または侵略行為に対して安保理がとる「必要な措置」など国連による集団安全保障としての武力行使だけが認められている。

○先制攻撃を肯定する「ブッシュ・ドクトリン」は国連憲章違反
　アメリカは将来発生するかもしれない武力攻撃に備えて、先制的に自衛しておくという論理を主張している（ブッシュ・ドクトリン＝国家安全保障戦略/２００２年９月２０日）が、これはとうてい認められない。まだ発生していない武力攻撃に対して先制的自衛を肯定するような先例を作ってしまえば、全ての武力行使が自衛権の行使として認められることとなり、武力行使への歯止めがなくなっていくだろう。

○平和に対する脅威は安保理が対処
　次に、集団的措置を発動するための要件である平和に対する脅威等の事実が存在していたか。その存在を認定し、それに対して武力の行使を容認するか否かを決定するのは、安全保障理事会である。５常任理事国はこの決定に拒否権をもっており、一国でも反対票を投じればこの決定は成立しない（アメリカ自身が７０数回の拒否権を使っており、この過半数がイスラエル関係）。安全保障理事会によって容認されない武力行使は、明確な国際法違反である。

○紛争の平和的解決義務にも違反
　なお、今回の武力行使は平和的手段による解決追及を義務付けた国連憲章３３条の理念に反するものといわざるを得ない。憲章３７条は、３３条が定める平和的解決が実現できなかった際にも、安保理に付託することを定めており、安全保障理事会が組織として対応するのが原則であり、米国の勝手な判断による軍事力行使は認められない。
　イラクに軍事侵略されたわけでもないアメリカが独自に武力を行使することが許されることは、人類が営々と築いていた国際人道法の歩みを否定し、ウェストファリア条約（１６４８年の同条約によって主権国家を単位とした近代国際法の体系が成立した）の時代に逆戻りさせる蛮行といわざるを得ない。フセイン政権転覆を目的とした武力行使は内政干渉であり露骨な侵略にほかならない。

※国連のアナン事務総長は、「安保理の支持がない軍事行動は国連憲章に違反する」、「国連はあらゆる手段を講じて平和的な解決を図らなければならない。もし安保理の合意がないまま米国が武力行使に及んだとしても、正当性は乏しい」として、米国に関係国との意見調整を継続するように求めた。川口外相はアナン氏は単なる事務局であり有権的解釈の権利を持たないとしたうえ、「正当性が乏しい」というのは正当という意味だと強弁した。

（２）根拠とならない決議６７８、６８７、１４４１

　今回の武力行使の根拠の一つは、クウェートからイラクを追放するために関連決議の履行を求め、この実施のための武力行使を認めた国連安保理決議６７８（９０年１１月）とされている。湾岸戦争後、イラクの大量破壊兵器の査察と廃棄を求めた決議６８７（９１年４月）が決議され、ブッシュは９７年以降決議６８７に基づく査察が妨害されたため、決議６７８に基づく「あらゆる必要な手段」が自動的に認められると主張している。１０年以上前に効力を停止した決議６７８の「あらゆる必要な手段」を武力侵攻の根拠にすることには無理がある。前提条件がまったく異なるからである。
　また、０２年１１月の決議１４４１はイラクに大量破壊兵器の開発計画の申告を求め、徹底的な査察の受け入れを求めているのであり、成立の経緯を見ても直ちに武力行使の根拠とはならないことは明らかである。１４４１決議の「深刻な結果」とい文言は武力行使を意味しないことを確認して採択されており、だからこそ米国は新たな決議を得ようとしたのである。仏、露、中などの拒否権以前に、新決議支持は安保理少数派に留まったのであり、安保理が武力行使に同意していないことは明らかだ。新決議が困難となったから、過去の決議の解釈を変更することが許されるはずはない。

３、社民党の提案

（１）米英軍は直ちに停戦しイラク国外へ退去せよ

　武力行使によってはなにも解決しない。アメリカはイラク攻撃で、地表貫通型核爆弾「Ｂ61―11」や、「デイジーカッター」と呼ばれる燃料気化爆弾、通常兵器として世界最強の破壊力を持つといわれる新型爆弾「ＭＯＡＢ」などの大量破壊兵器を使うだろうとも予想されている。大量破壊兵器保有の疑惑に対して大量破壊兵器で攻撃するというのはまったく道理が通らない。アメリカの空爆はすでに民衆に悲惨な被害をもたらしており、将来に大きな禍根を残すであろう。米英軍は直ちに武力行使を停止しするべきである。
　平和憲法を持ち、ヒロシマ・ナガサキという大量破壊兵器の惨禍を体験した日本こそが、大量破壊兵器の拡散を防ぎアメリカの戦争を止めさせるために積極的な役割を果たすべきである。イラク攻撃は国連憲章に反する侵略行為であり、これに協力することは日本国憲法の理念に反することは明らかである。テロ対策特措法など違憲の疑いが強い悪法を持ってしても、イラク攻撃への協力を根拠づけることはできない。

（２）徹底的な事実調査と賠償、国連の査察の継続による事実解明をすすめよ

　戦争被害の実態を早期に調査し、米英の責任において被災者の治療や、被害に対する賠償や等を行なうべきである。
　また、イラク政府は大量破壊兵器保有の野望を完全に捨てなければならないし、生物・化学・核兵器を保有していないことを自ら明らかにするべきである。国際的に検証可能な武装解除こそが、米英の攻撃の口実を与えないことともなるのであり、自らの利益であることを認識しなくてはならない。

（３）国際的枠組みの下、イラクの人々の生活再建をすすめよ

　戦争でイラクの民衆を虐殺し、インフラを破壊しながらの、「復興」の議論をすることは、「殺人をしながら香典を用意するようなもの」であり容認できない。まず、直ちに停戦し被害を止めたうえで、イラク市民の生活再建に取り組まなければならない。
　その際、アメリカにとって都合の良い「復興」であってはならず、国際的枠組みのなかで、取り組むことが大前提である。アメリカは当分の間の占領統治を予定しているとも伝えられているが、一方的な「民主化」の押しつけは問題を複雑化するだけであり、認められない。イラクの体制はイラク人自身が決めるべきであり、アメリカの都合で決めることは許されないのである。
　日本も、人道的な分野に限って積極的な協力を行なうべきである。なお、日本政府は新法を制定してイラクへ自衛隊を派遣することを検討しているが、絶対に認められない。仮にイラクの治安のために武装部隊が駐留する必要があるとしても、中立的な国によって担われるべきである。

（４）大量破壊兵器の拡散を阻止するための国際的枠組みを強化せよ

　すでに大量破壊兵器の拡散に立ち向かうための国際的枠組みが存在している。核不拡散条約（ＮＰＴ）、生物兵器禁止条約（BWC）、化学兵器禁止条約（CWC）、ミサイル関連技術輸出規制（ＭＴＣＲ）、弾道ミサイル拡散防止のための行動規範（ＩＣＯＣ）などの既存のシステムを強化するべきである。さらに核兵器禁止条約制定のための交渉を始めるべきである。イラクのように査察を受け入れたとしても、その結果にかかわらず攻撃されるというのであれば、今後の他の疑惑国は査察を受け入れない可能性がある。イラク攻撃が大量破壊兵器の拡散を防ぐ国際的枠組みの機能を弱めたことは間違いなく、その再生のためのいっそうの努力が求められている。

※ＣＴＢＴの批准に反対し、ＮＰＴ第６条の義務を果たそうとせず、核不拡散体制の規範力を弱めてきた主犯はアメリカである。化学兵器禁止条約に基づくＯＰＣＷ（化学兵器禁止機関）の人事に介入して事務局長を解任させ国際的批判を集めたのもアメリカである。（ＯＰＣＷのブスターニ事務局長は締約国を５年間に８７ヵ国から１４５ヵ国に増やすなどの実績を評価されており、イラクにも加盟を働きかけていた）。生物兵器禁止条約の実効性を高めるための議定書を拒否し条約改正交渉を頓挫させたのもアメリカである。国際テロの抑止に効果があると考えられる国際刑事裁判所規定（ＩＣＣ）を拒否し妨害しているのもアメリカである。アメリカが真に大量破壊兵器の拡散を防ぐ意図があるなら、こうした態度を直ちに改め、大量破壊兵器拡散を防ぐために国際社会の努力との協調をすすめるための枠組みを強化をはかるべきである。

（５）国連の改革と再生をめざそう

　今回、国連の安保理の意見が一致できず、米英の勝手な軍事行動を止められなかったことによって、国連の機能不全を指摘する議論がある。しかし逆に考えれば、多くの国が米国の強大な政治力に屈することなく、不当な武力行使に対して正当性を与えなかったことを評価することもできるのでないか。安保理の分裂が妥協によって粉飾されたうえ、武力行使が強行されたなら国連の権威はより大きく失墜したであろう。今後、イラク戦争を教訓として国際協調をすすめ平和的な問題解決のための国連の機能の強化に断固とした決意で取り組むべきである。

参考資料

高まる戦争反対の声

○ＥＯＳギャロップ欧州社が世界の３０か国を対象に実施した世論調査によると、ＥＵ（欧州連合）１５か国では、国連の委任を受けない米国の対イラク戦争への参加に８２％が反対している。また米国のイラク攻撃の主な理由が石油にあるとみる人は３０か国全体で７２％に達した。

○いま世界中で反戦の声が高まっている。１月１８日にイラク攻撃に反対する平和集会「ワールド・ピース・ナウ１・１８」が開かれた。東京・日比谷公園には、約７０００人が集まり、札幌、大阪、京都、広島などで集会が持たれた。アメリカでは５０万人がワシントンに、２０万人がサンフランシスコに集まった。この他、アイルランド、エジプト、スペイン、アルゼンチン、南アフリカ、ヨルダン、ベルギー、シリア、香港、ロシア、ドイツ、イギリス、パキスタンなど３０ヵ国以上の市民が連帯して世界同時に開かれたものであり、全世界で１０００万人以上が参加した。。国際A.N.S.W.E.R.(Act Now to Stop War & End Racism 戦争を止め、人種差別を無くすためにいま行動を)連合の呼びかけで行なわれた。
　３月８日の「ワールド・ピース・ナウ３･８」も全国で取り組まれたが、日比谷野音の会場で約４万人が集まり入りきれない参加者が日比谷公園を埋め尽くした。同じく３月２１日の「ワールド・ピース・ナウ３・２１」では芝公園に約５万人が集まった。同日の日比谷公園「DON'T ATTACK IRAQ & STOP!有事法制３･２１集会」には労働組合を中心に５千人が集まった。宮下公園「イラク攻撃反対3･21全国高校生平和大集会」には高校生数千人が集まるなど、若者の行動も目立っている。

○マイケル・ラトナー氏など１００名以上のアメリカの法律家が連名で、「武力が行使される場合には国際人道法を遵守せよ」という趣旨の手紙を米、英、カナダの各国の政府あてに提出した。米英軍の無差別攻撃など、国際法違反の攻撃によって民間人が死傷すれば、「戦争犯罪」に該当し、法律家とＮＧＯが共同で国際刑事裁判所（ＩＣＣ）に訴追するとしている。（２００３年１月）
※英国は０２年７月に発効したＩＣＣ規程の締約国である。アメリカは規程にいったんは署名したもののブッシュが署名を撤回し非締約国となっているが、非締約国の国民であっても訴追を免れることはできない。

○マーティン・シーン氏などハリウッド俳優らが米大統領にイラク攻撃の断念を求めるブッシュ大統領にあてた書簡を公開した。俳優ら約１００人が参加するキャンペーン組織「戦争なしに勝利をめざす団結する芸術家」によるもので戦争ではなく外交による解決を求めている。「イラクへの先制的軍事侵略は、人道上の損害を増加させ、アメリカへの憎しみを刺激し、テロ攻撃の可能性を増大させ、経済に打撃を与え、アメリカの道徳的評判に傷をつける」と指摘している。賛同署名者はマイク・ファレル、ヘレン・ハント、キム・ベイシンガー、ジェシカ・ラング、スーザン・サランドン、ミア・ファロー、マット・デイモン、イーサン・ホーク、サミュエル・Ｌ・ジャクソン、ユマ・サーマン氏などの俳優の他、退役将官のユージン・キャロル氏、元イラク駐在米大使のエドワード・ペック氏など。

イラク問題関係年表（～2003.3.20）
1990.8.2		イラク、クウェートを侵攻。安保理決議６６０、侵攻を非難し即時無条件の撤退を求める
1990.11.29		安保理決議６７８、「決議６６０およびすべての関連決議の完全遵守」を要求し、国連加盟国に対して「あらゆる必要な手段をとる権限」を与える
1991.1.17		湾岸戦争開始
1991.4.3		停戦のための安保理決議６８７、核・化学・生物兵器、射程１５０キロ以上の弾道ミサイルの破壊を命じ、国連イラク特別委員会（ＵＮＳＣＯＭ）とＩＡＥＡの査察
1998.10		イラク、ＵＮＳＣＯＭへの協力停止を決定
1998.11.5		安保理決議１２０５、査察への協力再開を要求
1998.12		米英両国は、湾岸戦争後で最大規模の空爆を実施。査察活動はストップ
1999.12.17		安保理決議１２８４、国連監視検証査察委員会（ＵＮＭＯＶＩＣ）を設置
2001.1		米ブッシュ政権誕生
2001.9.11		米同時多発テロ
2002.1.29		「悪の枢軸」一般教書演説
2002.3		国連とイラク、査察問題をめぐる対話再開
2002.3.28		アラブ首脳会議、「イラク攻撃全面拒否」の最終声明採択
2002.5.26		ブッシュ大統領、米政府の政策としてフセイン政権転覆を公言
2002.8.15		米国防総省、イラク攻撃を念頭においた国防報告を議会に提出
2002.9.5		米英軍爆撃機、イラク防空施設を爆撃、過去４年間で最大
2002.9.12		ブッシュ大統領、国連総会演説、査察失敗なら単独でも攻撃と表明
2002.9.14		日本・イラク外相会談、川口外相、無条件査察受け容れを強く要望
2002.9.16		イラク、査察の無条件受け容れを表明。米政府は査察再開に反対
2002.9.20		米国、先制攻撃戦略を基軸とする国家安全保障戦略を発表。大統領命令NSPD１７
2002.9.30		米議会、対イラク武力行使容認決議案審議入り
2002.10.4		パウエル米国務長官、ブリクスＵＮＭＯＶＩＣ委員長と会談、査察延期で合意米、１２月末までにイラク射程内の洋上に空母４隻配備の計画を発表
2002.10.6		イエメン沖の仏タンカー「ランブール」が爆発、１７人負傷
2002.10.7		ブッシュ大統領、米国民向演説。イラクの脅威は比類がないと支持訴え
2002.10.11		イラク、査察メンバーに米国人の参加受け容れ、米国拒絶。米下院、武力行使容認決議案を２９６対１３３で可決
2002.10.12		米上院、武力行使容認決議案を可決。イラク、大統領宮殿の自由な査察も受け容れを表明。バリ島のディスコと米国名誉領事館で爆発事件
2002.10.15		フセイン・イラク大統領の信任を問う国民投票、１００％信任
2002.10.16		安保理公開会合、南ア（ＮＡＭ）の発議で70の国と国際機関が発言
2002.10.16		米英バグダット南東の防空施設を爆撃。イラク問題をめぐる国連安保理の緊急公開協議開始
2002.10.21		米国、国連安保理常任理事国に対し、新決議案を正式に提案。フランス、ロシアは反発
2002.10.23		対イラク攻撃に関する決議案、米英共同で安保理に提案、協議にはいる。ブッシュ大統領、３５５４億ドル（約４４兆円）の０３年度国防予算案に署名
2002.10.24		フランス、独自の安保理決議草案を、常任理事国一部と全非常任理事国に提示
2002.10.29		イラク、米国の新決議案を「宣戦布告に等しい」と厳しく非難
2002.10.31		イラク、サウジアラビアとの国境を１２年ぶりに再開
2002.11.4		フセイン大統領、新決議受け容れの条件表明、「国連憲章や国際法の尊重」、「イラクの主権、独立の尊重」「米国の悪意を覆い隠すものでない」
2002.11.5		米中間選挙、共和党上下両院で過半数獲得
2002.11.7		米英軍爆撃機、バグダット南東１５０キロのイラク防空施設を爆撃
2002.11.8		国連安保理、対イラク新決議１４４１を全会一致で採択。仏中ロ、決議受け「自動的武力行使を排除した」と共同声明
2002.11.10		米英、イラク南部の防空ミサイル基地２カ所を精密誘導弾で爆撃
2002.11.12		英国医療従事者団体メダクト、開戦時の死者推定４６万人とする報告書を発表
2002.11.13		サブリ外相、アナン事務総長に書簡提出、安保理決議１４４１の無条件受諾表明
2002.11.17		ラムズフェルド米国防長官、対テロ戦争用に小型核爆弾を開発中と発表
2002.11.18		ＵＮＭＯＶＩＣの先遣隊、バグダッドのサダム国際空港に到着
2002.11.21		プラハで、ＮＡＴＯ首脳会議、東欧やバルトの７か国が新規加盟
2002.11.25		ブリグス委員長、大量破壊兵器廃棄済みとするイラクの主張を安保理に報告。エルバラダイＩＡＥＡ事務局長、査察を通じた平和的な解決が可能と現状を評価
2002.11.27		国連査察再開、ＩＡＥＡのボット査察官、ＵＮＭＯＶＩＣのペリコス査察官、イラクの協力を評価「イラクはこちらが見たいという物をすべて見せた」と成果を強調
2002.12.1		エルバラダイ事務局長、査察の結論には１年必要、と国際社会の忍耐を訴え
2002.12.2		国連査察団、バグダッドの大統領宮殿を抜き打ち査察、イラク側も協力
2002.12.7		イラクは12000ページにわたる申告書を提出。フセイン大統領クウェートに９０年の侵攻を謝罪
2002.12.10		米、核先制攻撃を国家戦略とする報告「大量破壊兵器に対する国家戦略」を発表
2002.12.11		大量破壊兵器に対する国家戦略、「核報復を含む圧倒的戦力で報復」
2002.12.15		エルバラダイＩＡＥＡ事務局長、現時点でイラクの核兵器製造証拠はないと証言
2002.12.16		海上自衛隊のイージス艦きりしま、横須賀基地をインド洋向出港
2002.12.17		ロンドンで開かれたイラク反体制派会議、民主的連邦国家樹立を宣言し閉幕
2002.12.19		安保理会合で査察両機関は、９８年以降の情報が「きわめて少ない」。パウエル米国務長官、「重大な記載漏れがあり、重大な違反」
2002.12.21		国連、米軍攻撃で流出するイラク難民を約６０万人と推定
2002.12.26		イラクのラマダン副大統領、日本は米英に次いでイラクに敵対的、と強く批判
2002.12.28		イラク、大量破壊兵器開発疑惑解明の為５００人以上の科学者リストを国連に提出
2003.1.9		安保理会合、決定的証拠出ず
2003.1.23		イスタンブール中東６カ国会合
2003.1.27		安保理会合、査察両機関が報告
2003.2.5		安保理会合、米国務長官機密情報開示
2003.2.10		ＮＡＴＯで仏、独、ベルギー、トルコ防衛を「時期尚早」と拒否
2003.2.14		安保理会合、査察両機関が追加報告
2003.2.18		安保理公開討論会。日本は「国際社会の姿勢を示す新決議が必要」と主張
2003.2.24		米英ス、新決議案を安保理に提出。仏独ロ、査察の強化継続案
2003.2.28		ブリクス委員長、安保理への定期報告書提出
2003.3.1		イラクが弾道ミサイル「アッサムード２」の廃棄に着手
2003.3.4		イラクが国連査察団に対し、1週間以内にVXガスと炭疽（たんそ）菌の廃棄に関する報告書を提出すると通告
2003.3.5		仏独ロの3国外相、米英の新決議案反対の共同宣言を発表
2003.3.7		査察委員長が安保理外相級会合でイラクの査察協力状況を評価する一方、生物・化学兵器のさらなる廃棄証明努力を要求。米英スが１７日までの武装解除を求める修正決議案を提出
2003.3.11		安保理６ヵ国がイラク武装解除期限の４５日延長を提案
2003.3.12		英が安保理で、イラクに期限内の武装解除を求める6項目課題案を提示
2003.3.16		米・英・スペイン３国首脳がアゾレス諸島で会談
2003.3.17		米英スペインが新決議案取り下げブッシュ大統領がイラクに最後通告
2003.3.20		米英軍、イラク攻撃を開始