2002.11.15
社会民主党

デフレ克服に向けた「基本的考え方」

1 デフレ克服に役立つ雇用と暮らし優先の「社会再生」

 継続的な物価下落を止めるためには、企業や家計の前向きな支出活動を引き出し、総需要を増加させる必要がある。しかし、国民生活に負担と痛みを強いるだけの小泉流の構造改革は「経済の総収縮」をもたらすだけに終わってきた。小泉改革が破綻した何よりの証左が現在のデフレ不況だといえる。
 社民党は、小泉流構造改革の終焉なくして、デフレ克服は成就しないという立場を鮮明にし、日々の営みを大切しながら、「人から元気にする」政策に最優先で取り組む。
「ミクロの生活権(安心できる生活)保障」の積み上げこそが、マクロの景気回復を果たすための“牽引車”たりうるとの立場から、雇用創出・安定(雇用機会)と民需を同時に追求できる、「ミクロ政策」の推進に全力で取り組む。

2 「社会再生」支援のための実効ある補正編成を

 竹中金融大臣が主導しようとする金融機関の貸出先にかかわる資産査定が厳格であればあるほど、直接償却の対象にせざるをえない企業が増えることは容易に想定できる。
 この結果、必然的に生まれる大量の失業者や関連企業の倒産などへの対処・セーフティネットに万全を期すためには、30兆円の枠内に止まった財政出動では不可能なことは論をまたない。
 暮らしの向上に直結する政策がない限り、GDPの約6割を占める個人最終消費が好転することは困難だ。このままでは、個人最終消費低迷の一層の膠着化によって、必然的に生じる税収不足の制約を受け、小泉首相がもっとも忌み嫌う赤字公債に頼らない限り、不良債権の抜本処理に欠くことのできないセーフティネットのための財源すら用意できないことは明らかといえる。
 国民の生活再建、わけても雇用対策と中小・零細企業等に対する抜本的支援を最重視する立場からの補正予算編成が急務である。
 その柱は、(1)福祉・教育・環境等、地域を元気にする雇用創出策 (2)企業のリストラ・海外移転等による産業空洞化防止・産業活性化、とりわけ中小零細企業の活性化を通じた雇用確保 (3)雇用創出につながるワークシェアリングを実行する企業への支援 (4)地域経済活性化のための地域金融機関への積極的支援策――などである。

3 社会保障制度の総合的かつ抜本的拡充こそ、真のデフレ対策

 デフレを深化させている要因のひとつは「個人消費の伸び悩み」。
 超低金利下にあっても、貯蓄が消費や投資に回らない背景には、圧倒的な「将来への不安」がある。
 社民党は、創造的福祉社会を実現し、活力ある福祉社会を築く。そのためには、財政均衡のみに腐心する場当たり的な制度いじりではなく、年金、医療、介護・育児、生活保護――などの社会保障制度が、サービス受益者の側に立って改革され、その将来像が明確に示されることが必要である。
 個人単位の「暮らせる年金」の保障の実現は安定した購買力を確保し、高齢者、子ども、障害者、失業者などへの社会サービスの充実は新たな内需と労働市場を創出する。

4 実際に効く雇用対策

 政府の後追いの雇用政策によって生活基盤崩壊の危機に直面している人々に“実際に効く”施策を進める。とりわけ、雇用保険特別会計の枠にとらわれない一般財源からの積極的な財政出動を行い、実効ある生活安定および再就職支援策に万全を期す(「国策」として行う)。

(1)意味あるワークシェアリングに対する十分な公的支援
 サービス残業等の強要に象徴される不法行為根絶に向けた監督・検査体制の強化およびわが国特有の長時間の時間外労働や休日労働に対する実効ある法規制を進める。
 この前提に基づき、時短によるワークシェアリング(仕事の分かち合い)を根付かせるための公的支援策を整備する。「同一価値労働・同一賃金」原則に基づくワークシェアリングの推進は、遠回りのようでも21世紀のわが国の「真の経済基盤強化」につながる。また、生き方と働き方に関して根本的な変革を迫るものであり、国際的な潮流であるジェンダー・フリーの理念にもかなう。
 雇用増に寄与する労働者本位のワークシェアリングに積極的に取り組む事業主には、法人税の政策減税や社会保険料(年金、健保)の軽減など、公的支援を積極的に行うなど〈注〉、労働者と企業の“共存共栄”が図れる枠組みとする。

〈注〉  具体的イメージとしてはフランス型を指向。(1)所定内労働時間の10%以上の削減 (2)それに伴う6%の雇用増(純増)―の2つの要件を満たすことが前提となる。

(2)雇用維持・創出策と労働者本位の能力開発プログラムとの連携

(i) 雇用維持等の最優先
 今日の深刻な雇用情勢を打開する方策は、雇用の「維持および創出」である。まず、企業がその「社会的責任」を果たすのが先決であって、それでも雇用を維持できないときに「雇用のセーフティネット」による失業・離職労働者の生活の保障とあわせた再就職支援策が確保されなければならない。
(ii) 雇用維持・創出に努力する企業等への支援策の強化など
 企業の雇用の維持・創出のために、現行の雇用対策法および雇用保険法が有する枠組み・施策の見直しを行い、「積極的に雇用の維持・創出」を図る施策を策定する企業に対する支援策を強化する。
 具体的には、雇用対策法に規定する助成措置の拡充による安定雇用の確保、雇用保険法における教育訓練給付の実効ある運用(訓練給付の給付率の見直しと訓練給付を受けて再就職した労働者への一時金支給制度)、再就職支援のための訓練延長給付の拡充と再就職早期達成者への一時金支給(基本手当給付日数は現状維持)、雇用安定事業の強化・拡充(中小企業雇用創出人材確保助成金の拡充、大規模雇用開発促進助成金の適用枠の拡大、高年齢労働者の雇用促進策をリストラ対象となっている中年労働者にも拡充適用)―など。
(iii) 労働者本位の訓練延長給付の拡充および「能力開発ローン制度」の創設
 「労働者が変化に適応して雇用され、雇用され続けうるため」に不可欠な能力開発プログラムの策定および能力開発体制の拡充・強化に取り組む。また、生活の安定確保と十分な教育訓練の受講が可能となる訓練延長給付制度の積極適用を図る観点から、同制度の抜本拡充・整備を進める。
 同時に、働く人が主体的に取り組む能力開発に対して十分な支援を行うため、無利子の「能力開発ローン制度」を創設する。
(iv) 高止まり失業の若年・中高年労働者の就職支援
 社会に出る若者に「夢と希望」を持てる就職を支援し、中高年労働者労働者の採用を 促進するための積極的施策として、イギリスなどの成功例を踏まえた、有給のインターン雇用(体験入社)制度の導入、普及を図る。
(3)公的部門による直接雇用の推進
 深刻化する雇用収縮に対応するためには、公的関与による雇用機会の創出が積極的に図られる必要がある。教育・福祉・環境(森林保全や資源リサイクル)分野に止まらず、国民生活に「安心」と「安全」をもたらすという立場から、食の安全管理のための職員や消防職員、消費生活相談員などの抜本的拡充に取り組む。
 また、緊急地域雇用創出特別交付金については、雇用創出効果のいっそうの発揮が望めるように拡充するとともに、活動主体としてNPOや労働組合の参加が促進される枠組みとする。

(4)「倒産時の見舞金制度」の創設や日雇労働者の失業への適切な対応等
 (1)内職・建築職人等の手間請け従事者に対する「倒産時の見舞金制度」の創設 (2)日雇労働者の失業手当などにかかわる受給要件の緩和 (3)「ホームレス・ホーム」(仮称)の整備および入所者に対する能力開発・職業訓練等をはじめとする再就職に向けた十分な支援措置――など、見過ごされがちな施策にも光をあてる。

5 展望を持った産業再生

(1)創造的な「環境産業」の構築
 環境負荷を軽減する製品製造からコンサルティングや排出権取引やエコファンドといったサービスの提供まで広がる環境産業は、世界的な環境悪化の増幅と環境問題への関心の高まりにより、市民側と事業者側の双方において、「環境産業」として確立されることが模索されている。日本は70年代における産業公害対策をはじめとした経験も豊富であり、製造業は技術開発力や高い技術力をもちあわせている。このような経験と高い技術力こそを活かし、地球環境の保全に広く貢献する21世紀型「環境産業」の構築を進めることが求められている。
 同時に、生活の質的向上に直結する融資拡充の観点から、プロジェクト・ファイナンス〈注(1)〉の手法を活用し、リサイクル事業・風力発電といった新しい仕組みの事業に対する支援を積極的に行うとともに、新市場づくりにも貢献していく。また21世紀最大の課題ともいえる環境対策〈注(2)〉のため、環境への取り組みを企業活動や金融に正しく反映させるような社会の枠組みも整備する。

〈注(1)〉  企業そのものに着目した「コーポレート・ファイナンス」ではなく、「事業目的」と効果を重視する融資手法のこと。
〈注(2)〉  成長を続けるアジア経済にとって、環境負荷問題は最重要課題にならざるを得ない。
(1)地球温暖化対策に伴う自然エネルギー産業の育成と森林育成整備事業の拡充 (2)自動車等のリサイクルに伴う環境型リサイクル産業の育成―などに関し、アジアの一員として、積極的な研究・技術貢献等を行っていくべきだと考える。

(2)高齢社会に見合う医療・介護関係の実需と雇用の創出
 高齢化社会の到来は、高齢者へのサービスが大きなマーケットとして創出されることを意味する。よって社会保障の将来像を示し、総合的かつ抜本的な改革を行うことによって、将来の生活における自己負担の大きさへの不安を払拭するだけではなく、大きなマーケットである高齢者の豊かな生活を実現するため、上質なサービスを提供する福祉産業を強化することによって新たな内需と労働市場の創出を進める。

(3)マイクロマーケティングによる地域に根ざしたビジネス発掘
 マイクロマーケティング〈注〉は、地域の人口構造、市場構造等を分析し、消費者や地域のより生活に密着したニーズに細やか、かつ柔軟に応えるビジネスやマーケットの発見、出店計画、輸送経路等の詳細な戦略立案が可能となる利点を持つ。マイクロマーケティングの普及・促進に向けた条件整備を図り、地域に根ざした地域産業力の発掘に取り組む。

〈注〉  ソフトウェア、地図データ、統計データから構成される「地図情報システム(GIS)」による地域別の詳細なデータベースを利用したマーケティング手法。近年の情報処理能力の向上により、「子どもが独立した後の郊外の老夫婦世帯」といった質的分類が可能となっている。

6 金融の量的緩和が末端まで染み渡る回路の再構築─カスタムメード (注文に応じた、特別製)の地域自立支援

(1)日本版「地域再投資法」の導入
 自立をめざす地域の「元気」「やる気」を引き出す観点から、中・低所得者層、女性、スモールビジネスなどへの公正な融資を金融機関に義務づけ、「地域全体の需要」に応えていくことを目的とする日本版「地域再投資法」の導入を図る。

(2)地域の金融円滑化の促進
 地域で密接な相互信頼関係にある中小・零細企業に対して、「まとめて融資する」〈注〉などの金融手法の積極活用を図り、地域社会の特性等に適切、柔軟に対応し得る金融活性化の“呼び水”とする。

〈注〉  この「まとまり」(「コミュニティ)に参加する企業全体で連帯保証するため、結果的に信用力が補完され、貸出金利は有担保に近い低水準となる―などの利点が見込める。

(3)知的所有権の活用
 「科学技術創造立国」の拠って立つ基盤は、常に他国より一歩前をいく進取性にある。この観点から、新たな産業を育成するため、特許権等の「知的所有権」担保融資の活用を図るとともに、その流通市場の整備を進める。

(4)セーフティネット保証枠の拡充、DIPファイナンスの積極活用
 中小企業者への資金供給の円滑化を図るため、セーフティネット保証にかかわる無担保保険限度額等をいっそう拡充する。
 また、社会経済的に有用な事業の劣化・散逸等を防止することを通じて(事業価値の保全)、地域にとって重要な役割を果たしてきた企業の雇用を維持することは、地方経済の浮沈にかかわる選択といえる。地域経済および雇用に与える波及度などを融資判断基準とし、政府系金融機関が行うDIPファイナンス〈注〉の融資枠の拡充を図る。

〈注〉  法的手続き中の企業に対する再建のための融資制度。

7 社会のデザインを変える手段としての証券市場の活性化

 株を投機の対象としてのみ位置づける発想から、社会的に責任を果たしている企業を応援し、「社会のデザイン」を変えていく手段としての株式市場の活用を促す。

(1)「金融警察」「金融Gメン」としての権限強化で、市場をもっと透明に
 市場で提供される商品(証券)の違法行為を取り締まるための、公正なルールを徹底する監視・執行体制(アンパイア)の抜本的な強化を図る。
 証券取引(市場)の一層の透明化などが図られない限り、活性化の“鍵を握る”ビギナー投資家が増えるはずはない。
 政府の対策にある“取って付けた”ような対応ではなく、米国のSEC(証券監視委員会)の成果に学びつつ、証券取引等監視委員会が「金融警察」あるいは「金融Gメン」としての機能を十分に果たしていくための体制整備、権限強化などに積極的に取りむ。

(2)社会的責任ファンドの開発が、市民と株式の新しい関係を生む
 「市民に顔を向けた」投資信託(ファンド)を評価するバロメーターとそのための情報開示を促す枠組み整備に取り組む。
 環境に配慮した投資先を前提とした「エコファンド」のほか、女性の権利を尊重する企業を対象とした「女性ファンド」のほか、「人権ファンド」なども同様に重要な意義(価値)をもつ。企業の「社会的な責任」を明確にした新しい形の金融商品の開発促進のための条件整備などを進める。

8 「元気な地域づくりプラン」

 未曽有の厳しい経済・雇用情勢にある中、住民に密着し身近な仕事を担う自治体は、地域におけるセーフティーネットの砦ともいうべき重要な役割を果たしている。
 地域のヒト、モノ、技術を引き出し、いきいきした地域経済と自治体財政の再生を図り、地域から元気と安心を創造するため、自治体への税源移譲を進めるなど自治体財政を充実強化する。
 ゼネコン中心・中央主導の大プロジェクト誘致型、公共事業依存の対策は借金を増やし、生態系や環境を破壊するばかりで効果が見られなくなっている。利権体質を生み、無駄が多い、大規模プロジェクト中心の「大きな公共事業」を転換する。このことによって住民ニーズに合致した環境・福祉・生活重視の新しい街づくりや地域経済の自立的基盤の確保に貢献するとともに、地元の中小・零細企業等に直接仕事が回るようにする。

9 本末転倒のインフレ・ターゲティング

 過去の経験からも、経済成長率が高まって需給バランスが改善されるならば、1〜2年後に物価が上がり始めている。この経験則からも、マイナス成長下の物価低迷は、人間の体になぞらえるならば、健康状態に応じた体温のようなものという冷静な認識も必要だ。健康体を取り戻すこと(経済再生)を優先しないまま、インフレ・ターゲティングのような物価水準の引き上げをことさら重視する手法は、木を見て森を見ない選択に等しいものであり、到底賛成できない。
 物価だけを上げようとすれば、グローバルな競争のもとで賃金上昇が望めない家計の将来不安を増幅し、かえって個人消費を減退させる。また、金利の上昇が物価上昇より先に起きて、中小企業の打撃となる可能性も大きい。インフレを人為的に起こそうとする政策は、実は、家計や中小・零細企業の犠牲のもとにバブル企業を救済しようとするものといわざるをえない。
 非デフレ・ターゲットであろうが、インフレ・ターゲットであろうが、「同根のものであり」取り得ない選択肢であることを鮮明にする。

10 公的資金再注入の前提としての国民合意

 社民党は、国民の生活再建と企業再生を基軸とした政策を総動員し、景気を回復軌道に乗せ、その状況を見極めつつ、かつ、中小・零細企業等に対するきめ細かな配慮を前提に、責任の所在を明らかにした不良債権処理を集中的に行う〈注(1)〉
 金融機関の多くは不良債権の償却で収益を全部使っても、なお足りない状況にある。しかも、一部の金融機関は積み立てが義務づけられている法定準備金の取り崩しにまで追い込まれている。袋小路を打開するためには、政府の手による資本の供給という手段も「政策的な合理性」を持つに至ったと考える。
 地域経済の発展と雇用維持に大きな役割を果たしてきた善意かつ善良な中小企業等に関しては、融資の継続が前提となる間接償却を活用する。この原則が確立されるならば、公的資金注入と国民の理解という「難題の両立」は果たせるのではないか。
 この「立脚点」は、公表延期に追い込まれた竹中PT(緊急対応戦略プロジェクトチーム)の「不良債権処理加速策」(竹中プラン)〈注(2)〉に欠落しているものだ。到達目標の妥当性はもとより、順序立て(筋立て)・タイミングなど、緩急わきまえた手綱さばきこそが「マクロ政策の要」となるべきことは論をまたない。竹中プランは、そうした当然の目配りもデフレ対策も、雇用配慮の社会的セーフティネット強化の備えすらないままに、「公的資金注入ありき」で突っ走り、自ら墓穴を掘ることになった。
 その意味ではなぜ今、公的資金が要請されているのか、もう一度、明確にされなくてはならない〈注(3)〉

〈注(1)〉  単に銀行の経営基盤の強化にとどまる不良債権「処理費用」としての公的資金注入の枠組みとは明確に一線を画し、国民的利益に適う「機能の発揮」を追求する。
〈注(2)〉  主な柱は、数値目標に沿って金融安定化を図る。そのため、二年の間に、(1)税還付を見込んで資本に繰り入れる税効果会計の制限 (2)引当金強化のため「割引現在価値方式」方式の導入 (3)資本不足に陥った銀行の経営陣刷新を前提に、公的資金の投入――など。
〈注(3)〉  銀行の持ち株評価損による自己資本の目減り→(BIS規制の圧力から)自己資本比率の維持に重きを置く資産圧縮→貸しはがしの横行による中小企業等への打撃→ひいては不況の深化、不良債権の増加という「負の回路」=逆循環に歯止めをかけることが最大の目的。

(1)きめ細かな配慮前提の集中的不良債権処理
 金融機関の信用仲介機能の低下(信用収縮)と不良債権問題は、“コインの裏表”の関係にある。金融機関は貸出リスクを避けるという姿勢を一段と強めつつある。このため、中小・零細企業等に対する貸出しは依然として抑制状況下にあり、これが日本経済を悪化させ、雇用不安を生み出す要因ともなっている。
 金融機関に対し、適切なリスク管理の下で、特に中小・零細、ベンチャー企業などの経営基盤の弱い分野に十分な資金の供給を行わせ、社会経済の発展に貢献するという本来の使命を果たさせるためにも、不良債権の解消を集中的に断行しなければならない。
 金融機関自らに不良債権の早期処理(適切な引き当て、債権の売却等)を行わせるのはもとより、これに加えて、金融庁による厳格な金融検査を行い、銀行が保有する不良債権の実態を明らかにした上で、ここ2年程度の間に、自己資本を取り崩してでも不良債権を解消させることとする。
 その際、自己資本比率の維持など金融機関の経営基盤の健全性を維持させるためには、公的資金の再注入が避けられない事態も生まれる。しかし一方で、金融機関が経営責任の追及を恐れるあまり、自ら資本注入に手を挙げない現状等が存在する。この隘路を切り開くためには、預金保険法を改正して、いわゆる「強制注入」が可能となる枠組みの整備も必要だと考える。
 なお、善意かつ善良な借り手の保護、とりわけ中小企業向け資金貸付枠の増大が、98年と99年の二度にわたって行われた公的資金注入の目的の一つとされたことにも留意しなければならない。この主旨からも、中小零細企業向け債権と大企業向け債権とを同一リスク基準で処理させることが妥当とは思われない。善良な中小零細企業等に関しては、必要とされる貸倒引当金の積み増しに努めさせ、間接償却〈注〉を中心とした不良債権処理を行わせるべきである。
 同時に、大手行等が陥りがちな「物的担保主義」とは一線を画し、地域に密着した融資姿勢(中小企業等が有するノウハウ・知的財産・人材など、その“成長性の芽”に着目した融資)を貫いてきた地域金融機関については、その融資姿勢等を勘案した金融庁の資産査定基準を新たに設けることにする。

〈注〉  不良債権を帳簿に残しつつ、融資先企業の破綻に備え、貸倒引当金を積んでおく方法。
 他方、直接償却とは、債権放棄、債権譲渡(譲渡先による取立て)、融資先の法的整理による強制回収などの方法により、不良債権を帳簿から消す方法。なお、ダイエー再建に向けて主力行が採った債務の株式化(デット・エクイティ・スワップ=DES)、すなわち、債務免除と引き換えに取得した株式等を利用した健全債権化策はこの一変形といえる。

(2)責任の所在を明確にした再注入
 「強制注入」を行う際は、地域経済に与える影響、善良な借り手の保護、経営責任の明確化――などに十分留意をすべきだ。また、「強制注入」を行った後は、当該金融機関が行った不良債権の処理の状況や、中小零細企業等への貸出しの増加状況等について、速やかに国会に報告するものとする。
 公的資金の注入なくして「過小資本問題」を解消できないまでに経営基盤を損耗させてしまった金融機関の経営責任は問われて当然だ。公的資金の投入と同時に、「結果責任」が問われてしかるべき権能を与えられてきた経営陣の刷新も選択肢とし、国民経済の発展に真に資する経営体制をつくるべきだ。
 同時に、そのツケを国民負担という形でしか処理し得ない政府が負う責任はとりわけ重大だ。政府は責任の所在を明確にしなければならない。

(参 考)

中小企業について、間接償却による不良債権処理を重視すべき理由

1 金融機関の責務

 公的資金、すなわち国民の税金を注入された金融機関は、自らの不良債権処理が進めばそれでよい、ということには決してならない。地域経済、国民経済を支えるという金融機関本来の公的な責務を、より一層果たすことが求められる。

2 中小企業に与えるダメージ

 直接償却(清算取立て等)が中小企業に与えるダメージの大きさは、大企業の比ではない。
 (1) 債権の清算取立てにより会社財産を整理することとなった場合の企業再建は、大企業とは違い、中小企業においては事実上不可能である。
 (2) 債権放棄による直接償却の場合は、大企業の場合には、今後の取引関係等のメリットを睨んでの融資継続もあり得るが、中小企業の場合には、金融機関にとってこのようなメリットが薄く、即、融資打ち切りとなることが多い。

3 金融機関のリスク管理の問題

 そもそもの問題として、わが国の金融機関は、融資先企業の経営資源(ノウハウ、成長性、新規分野の開拓の可能性など)をトータルに評価しリスク管理をするというのではなく、担保資産中心のリスク管理を行っている。大企業向け債権と中小・零細企業向け債権を従前の基準でリスク査定すれば、実質的には、中小企業等にとって不当に厳しい査定になってしまう。したがって、金融機関側に適切なリスク管理が行える人的資源が調うまでの間は、従来のリスク基準では直接償却の対象とされる企業であっても、中小企業等については、まずは間接償却という穏やかな処理方法をとるべきである。

デフレ克服に向けた「基本的考え方」要旨

1 デフレ克服に役立つ雇用と暮らし優先の「社会再生」

 小泉流構造改革の終焉なくして、デフレ克服は成就しない
 国民生活に負担と痛みを強いるだけの小泉流の構造改革→ さらなる「経済の総収縮」へ

2 「社会再生」支援のための実効ある補正編成

 30兆円枠にとらわれない速やかな補正予算の編成
 不良債権処理の加速化は一時的にデフレ不況を深刻化→ 大量失業、関連企業の倒産に対するセーフティネットの整備が急務→ 万全の雇用対策と中小企業等へ支援措置を

3 社会保障制度の総合的かつ抜本的拡充こそ、真のデフレ対策

 社会保障サービスの受益者本位の改革を前提に、明確な将来像の提示
 個人単位の暮らせる年金の実現。高齢者、子ども、障害者、失業者へのサービス提供網等の迅速かつ抜本的整備

4 実際に効く雇用対策

 一般財源からの積極的な財政出動を前提に、「国策」としての生活安定
 および再就職支援策を
(1)意味あるワークシェアリングに対する公的支援
◇時間外労働の実効ある法的規制、サービス残業根絶ための監督・検査体制の強化
◇「雇用の純増」に寄与するワークシェアリングに取り組む事業主に法人税減税、社会保険料軽減などの公的支援
(2)雇用維持・創出策と労働者本意の能力開発プログラムとの連携
(i) 雇用維持を最優先、失業・離職者の生活保障、再就職支援の確保
(ii) 雇用維持・創出に努力する企業等への支援策の強化
  • 雇用対策法の助成措置の拡充による雇用の確保
  • 雇用保険法の教育訓練給付の給付率の見直し
  • 訓練給付を受けて再就職した者への一時金支給
  • 再就職支援のための訓練給付延長拡充と再就職早期達成者への一時金支給
  • 中小企業雇用創出人材確保助成金の拡充
  • 大規模雇用開発促進助成金の適用枠拡大
(iii) 労働者本位の訓練延長給付の拡充、「能力開発ローン制度」の創設
  • 生活安定と十分な教育訓練の受講が可能となる訓練延長給付の拡充
  • 無利子の「能力開発ローン制度」を創設
(iv) 高止まり失業の若年・中高年労働者の就職支援
  • 有給のインターン雇用(体験入社)制度の導入、普及
(3)公的部門による直接雇用の推進
 教育・福祉・環境・食品安全分野、林業労働者、消防職員、消費生活相談員――などの拡充
(4)倒産時の見舞金制度の創設、日雇労働者の失業への適切な対応等

5 展望を持った産業再生

 わが国の特性・技術力などの十全の発揮へ
(1)創造的な「環境産業」の構築
リサイクル事業・風力発電等への支援等
(2)高齢社会に見合う医療・介護関係の実需と雇用の創出
 上質なサービスを提供する福祉産業を強化し、新たな内需と労働市場を創出する。
(3)マイクロマーケティングによる地域に根ざしたビジネス発掘

6 金融の量的緩和が末端まで行き届く回路の構築

 カスタムメード(注文に応じた、特別製)の地域自立支援の“道具”として
(1)日本版「地域再投資法」の導入
中・低所得者層、助成、スモールビジネス等への融資の義務づけ
(2)いわゆる「コミュニティ融資」など地域の金融円滑化の促進
(3)特許権等の「知的所有権」担保融資の活用と流通市場の整備
(4)セーフティネット保証枠の拡充、DIPファイナンスの積極活用

7 社会のデザインを変える手段としての証券市場の活性化

 社会的に責任を果たしている企業を応援し、「社会のデザイン」を変えていく手段としての株式市場の活用
(1)証券取引委員会が「金融警察」「金融Gメン」としての機能を果たしていく体制整備、権限強化
(2)企業の社会的責任を明確にした新しい金融商品の開発促進のための条件整備

8 元気な地域づくりプラン

 地域から元気と安心の創造へ、税源移譲など自治体財政の充実強化。住民 ニーズに合致する公共事業への転換

9 本末転倒のインフレ・ターゲティング

 インフレを人為的に起こそうとする政策は、家計や中小・零細企業の犠牲のもとにバブル企業を救済するに等しい

10 公的資金再注入の前提は国民合意

 国民の生活再建と企業再生を基軸とした不良債権の「集中的処理」。善良な中小企業等に対する「融資継続前提」の間接償却の活用
(1)細心の配慮前提の集中的不良債権処理
(i) 国民本位の公的資金注入へ、預金保険法の改正を
(ii) 地域に密着する金融機関に対する新たな資産査定基準の採用
(2)責任の所在等を明確にした再注入
(i) 地域経済に与える影響、善意・善良な借り手保護、経営責任の明確化――などに留意
(ii) 中小・零細企業への貸出し状況等の国会への説明責任(報告義務)