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西村一広の「挑戦し続ける堀江謙一の単独航海」


第42回 全航程六万キロ・地球縦周り航海 転覆、マストが折れた!

 ハワイに向けてダッチハーバーを後にして四日目、一九八二年十月六日。大シケの中を走っていた〈マーメイド〉が大きな波を受け、「ドーン」という大音響とともに転覆した。一旦真横まで倒れた〈マーメイド〉だったが、すぐに立ち直った。しかし被害を確認するためにデッキに出た堀江は、そこで立ちすくんでしまった。マストが折れて無くなっていたのだ。マストがないとセールを張ることができない。そのままではハワイまで航海することはとても無理だ。堀江はデッキに残っていた装備を使って、応急の短いマストを立てることにした。艇速は極端に遅くなるが、それでも小さいセールを張れるのでハワイに向かってヨットを走らせることはできるはずだった。

 海はまだ荒れ続けていた。応急マストを立てて三日後、〈マーメイド〉は再び大きな横波を食らった。しかも今度は横倒しどころではなく、完全に船底を上にして転覆してしまったのだ。船内の床が天井になり、本来の天井が床になった状態だ。海水が滝のようにハッチから流れ込んできた。そのままでは、船内に閉じ込められた堀江ともども、〈マーメイド〉は沈んでしまう。船底に抜けている排水口からシュウシュウという音を立てて船内の空気が外に漏れ出て行く。その分、ハッチからザアザアと海水が入り込む。〈マーメイド〉は沈没しようとしていた。

 そのとき、幸運にも次の大波が〈マーメイド〉を襲った。その波で艇はクルリと起き上がったが、船内には一メートルも海水が入り込んでいた。真っ暗な船内に立って、堀江は呆然としていた。もう五分長く転覆していたら〈マーメイド〉と堀江は暗黒の太平洋の底に沈んでいたことだろう。気を取り直した堀江は船内に浸水した水を必死で汲み出し始めた。浸水している状態の船は不安定で、転覆しやすい。外はまだ嵐だ。僅か五分か十分の間に浸水した海水を汲み出すのに八時間もかかった。それほど大量の海水が入ってきたのだった。海水を汲み出し終えた堀江は、疲労のあまり、そのまま気絶してしまった。


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